年俸165億円男ニケシュが「ガンバルロー!」 ソフトバンク4000人の社員大会で咆哮した
だが、それはまったくの見当違いだったようだ。孫社長には越王句践のような目標達成感はまったくなかったのだ。孫社長が言う。
「今から4年前、この場所で30年ぶりの大風呂敷、大ボラとして『2040年、世界トップ10、時価総額200兆円』が目標と30年ビジョンを発表した。今は、大ボラでなく、本気で成し遂げてみせると思っている。目標も控えめに世界トップ10と言ったが、本音は『世界一』が目標。……世界一のインターネットカンパニーであるグーグルからニケシュが来てくれたことで世界に挑む体制、世界に挑む的確なチームができた」
孫社長の口調は淡々と社員に語りかけるものであった。先立つ株主総会。社外取締役である柳井正ファーストリテイリング社長が言った。「孫さんが本当にやるときは、静かに冷静に話す。目が据わってくる」。
富士山からエベレストへ
柳井さんが続ける。「ホラがホラとして終わらないためには、企業が継続できるようにする必要がある。今までは何兆円の勝負だったが、これからは何十兆円の勝負になる。本当に大ボラを実現しようと思ったら、グーグル、アップルを超えないといけない。当然、順調ばかりじゃない。失敗してもいいが、会社が継続できるように」。
ソフトバンク1.0の時代、私は8年3000日、社長室長として孫正義社長を補佐した。そのときの使命はソフトバンクを「やんちゃなベンチャー企業」から、「ちょっと大人のソフトバンク」に進化させ、「営業利益1兆円クラブ」企業に発展させることだったと『孫正義の参謀』(東洋経済新報社刊)に書いた。
ソフトバンク2.0の目標は、時価総額1位のアップル、3位のグーグルと大きく飛躍した。私が社長室長だった時代の「登る山」は標高3776メートル、日本一の富士山だった。これからは標高8848メートル、世界一のエベレストとなる。
富士山を登るときに孫社長をサポートするチームと、エベレストを登るときのチームは構成も必要とされる能力も違う。エベレスト登山で体を慣らすためのベースキャンプは5300メートル。富士山より高い地点まで、一挙にヘリコプターで行き、そこから頂点をめざす。世界一を目指すとはそういうことなのである。
「ニケシュは、真のグローバル企業、世界で最も進んだ企業であるグーグルで最高事業責任者を努めた能力のある人。私の最有力後継者候補である」(孫社長)。
アップル、グーグルを超えるのが目標で、数十兆円の勝負を託されるとしたら、165億円の報酬もふさわしいものとなる。ニケシュがあいさつをする。
「22歳のとき、2つのスーツケースと父からの300ドルを持ってインドから7000マイル先のアメリカにわたった。それからずっとアドベンチャーを続けてきた。……そのときと同じ気持ちで、ベストを尽くしたいと思う」
スタンフォード大教授のジェームズ・C・コリンズは優れた指導者が活躍できる期間を超えて、ずっと繁栄し続ける企業を「ビジョナリー・カンパニー」と呼んだ。ソフトバンクは、ニケシュという後継者候補を得た。個人としてのカリスマ性ある指導者を越えて、3世代、4世代と「何世紀も存続し続ける」(孫社長)ビジョナリー・カンパニーへの一歩を進み始めた。
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