原発再稼働を阻む「壁」 ストレステストの矛盾
政府が参考にしているのが、欧州連合(EU)によるストレステストだ。EUでは福島原発事故を受けて、6月から欧州域内143基の原発を対象に実施。年内までに最終報告書を出す計画という。
EU版ストレステストは、自然災害によって、原発が「全電源喪失」「全冷却システム喪失」に陥ると想定。焦点は「炉心冷却機能の維持」や「使用済み燃料プールの冷却維持」、「放射性物質の拡散阻止」をできるか否か。実務的には各事業者がコンピュータで耐性を検証する。シビアアクシデント(重大事故)の際、燃料が損傷するまでの時間をはじめ、際どい内容の提示まで求められる。
しかし日本の場合、同じストレステストを実施しようにも、条件が違いすぎる。
余裕度の低い原発は?
大震災後の緊急安全対策では、いずれもシビアアクシデントを想定しており、項目や評価基準にかかわらず、「すべての原発が合格になるのは明らか」(元東芝の原発設計者で日本システム安全研究所の吉岡律夫社長)。そのうえで各原発の余裕度が異なれば、「安心感を担保できるどころか、(余裕度の低い原発の)不安感をあおることになりかねない」(エネルギー総合工学研究所の内藤正則部長)。
しかも、全国的に電力不足が懸念される中、再稼働は時間との戦い。一次評価は最短プロセスでも、「1カ月程度かかる」(吉岡社長)とみられる。さらに二次評価で、欧州並みに総合的な安全評価をするなら、半年程度は必要だ。