人間でこの現象を証明したのは、シカゴ大学の心理学者沈璐希(シェン・ルーシー)による実験だ。
被験者87人を集めてタスクに挑戦させ、あらかじめ2ドルの報酬を約束した(確実な条件)。ただし一部の被験者には、1ドルの報酬か2ドルの報酬、どちらかが50%の確率で出ると説明した(不確実な条件)。
すると、報酬が確実だったグループでタスクを達成したのは43%だったのに対し、不確実だったグループでは被験者の70%が達成できていた。
不確実な報酬で売上がアップ
不確実な条件のほうが期待効用〔訳注 得られると予想される満足度〕は低かったにもかかわらず、こちらのほうがモチベーションをかきたてる力は強かった。「どっちが出るだろう」と思うワクワク感が、金額とは別の価値をもたらしていたというわけだ。
消費者になんらかの行動を促したいときも、不確実性を活用するといい。会員特典プログラムがあるなら、全員に毎回必ず同じ特典を出すのではなく、ランダム性を混ぜるのだ。
イギリスのコーヒーチェーン、プレタ・マンジェ(通称「プレット」)は、このアプローチで売上アップに成功した。コーヒーを1杯買うごとにスタンプを貯めて無料の1杯と引き換えるプログラムはよくあるが、プレットでは、店員がランダムにコーヒーをサービスする。
この作戦のほうが、購入回数に応じたアプローチよりも、客は大きな喜びを感じる。
ジャーナリストのハリー・ウォロップが、『タイムズ』紙のコラムで、プレットで無料サービスを受けたときの気持ちをこんなふうに書いていた。
これはおそらくイギリス最強のロイヤルティプログラムだろう。客としては、まるで宝くじに当たったような気持ちだ。私もヒーローのような気分でオフィスに戻り、同僚たちからはすばらしい幸運の持ち主だと絶賛を浴びた。いやぁ、本当にプレットは最高だ。
ロンドンで展開しているレストランチェーン、ディシュームの例はもっとすごい。インドのムンバイでは、かつてゾロアスター教徒が経営するイラン風カフェ(イラニカフェと呼ばれる)が流行っていた時期があるのだが、それをロンドンで再現したのがディシュームだ。
客は食事が終わってからブロンズ製のサイコロを投げる。マトカと呼ばれるサイコロで6が出たら、その日の食事は無料だ。数学的には16.7%の割引ということになるが、気持ちの上では、それよりもずっと大きな得をした気持ちになる。
(翻訳:上原裕美子)
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