JR東海と県のどっちに有利?静岡リニア「新会議」 座長は県と関係深いがトンネル工事に精通

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会議の中で矢野氏は県とJR東海に対し「どこまで歩み寄れるか議論してほしい」と要請した。歩み寄りとは「妥協する」ということなのか。JR東海の宇野副社長はこの問いに対して「もっと“汗をかけ”という意味だと解釈している」として“妥協”という見方を否定した。「そういうご意見はしっかりと真摯に受け止め、一段と汗をかいていきたい」。森副知事も「これからも一段と汗をかいていく」と語った。

そのほかの委員は6人で、大東憲二・大同大学特任教授や徳永朋祥・東京大学教授のように過去の有識者会議に引き続いての委員もいれば、山岳トンネルの専門家として新たに招かれた小室俊二氏はNEXCO中日本の社長を務める。「高速道路の建設におけるさまざまな経験がお役に立てれば」と小室氏は話す。有識者会議では学識経験のある委員が現実には起きることが考えにくい「もしも」という仮定の質問を持ち出し、議論を長引かせたことがあったが、今後は「過去の経験」がこうした質問の歯止めになるかもしれない。

県の専門部会からは増澤武弘・静岡大学客員教授が参加した。植物生態学が専門で南アルプスは50年前から調査しているという。有識者会議では、冬季における環境に関する調査は気象条件もあり深い山中に分け入るのは難しいという理由で行わないとしたが、増澤教授は「冬の調査は決して危険ではない。どうしても危険というなら日本山岳会に頼んでもいい」。有識者会議の報告書に異を唱える発言が出てきたが、国交省の担当者も「サジェスチョンをいただいたのでできることはやっていく」とした。

事態は改善の方向へ?

川勝知事は村田鉄道局長との面談の際、モニタリング会議の議論を静岡工区以外にも広げる可能性を示唆していた。矢野氏も会議の中で「動植物の生息分布や地下水の在り方について行政区分にとらわれない」と発言し、川勝知事の意見が反映されるのかと思われた局面もあったが、これに対して国交省の担当者は「工事の進捗に関する他県の知見は静岡工区にも役立つが、他県に調査を広げるようなことはない」と明言した。

JR東海の丹羽社長は「やってみないとわからないことが多い。一刻も早く着手して、わからなかったことがわかって、それをフィードバックするということを続けて、なるべく早く不確実性を減らしたい」と話す。森副知事も「有識者会議のとりまとめはわれわれの認識と少しずれがある。われわれとJR東海が議論した内容をモニタリング会議で議論していただければ非常に有益だ」と、期待を示す。

JR東海 丹羽社長
大井川流域10市町との意見交換会終了後、報道陣の質問に答えるJR東海の丹羽俊介社長(記者撮影)

会議はモニタリングの状況に応じて随時開催し、南アルプストンネルにおける保全措置の効果について見通しが得られるまで開催を続けるという。委員たちが今春から夏頃にかけ南アルプスを視察する予定であることも発表された。今回のモニタリング会議では、事態は少しずつだがいい方向に進んでいると感じられた。あとは、せっかく議論がまとまりかけても“ゴールポスト“が動かされて、ふりだしに戻るような事態が起きないのを祈るばかりだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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