JR東海と県のどっちに有利?静岡リニア「新会議」 座長は県と関係深いがトンネル工事に精通
流域市町とJR東海による事務レベルでの「連絡調整会議」もすでに2回実施していることも明かされた。両者のコミュニケーションは深まっているといってよい。
首長たちの理解が深まったのであれば、次はいよいよJR東海が10市町の住民に直接説明して理解を求めるというステージになるのか。この点については、染谷市長は時期尚早との考えを示した。県内のメディアは連日のように川勝平太知事の言動を批判的なトーンで報じており、世論の風向きが変わったようにも見えるが、流域住民に近い立場にいる首長たちはそこまでとは考えていないようだ。JR東海が先走りして直接対話に踏み切っても住民たちが拒否反応を示せば、これまでの努力は水の泡となる。拙速は禁物だ。
国交省の新たな会議がスタート
もう1つの動きは、国交省が有識者会議に続く新たな会議を立ち上げたことだ。もともと国交省は県とJR東海の意見を調整するため、水資源問題と環境問題のそれぞれについて有識者会議を設置し、水資源については2021年12月、環境保全と発生土については2023年12月に有識者会議が報告書をまとめた。これをもって国交省はこの問題に関する議論は終了したと考えている。
ただ、報告書の中で有識者会議はJR東海による環境保全措置やモニタリング等の対策が着実に実行されているか、国が継続的に監視することを検討するよう求めている。そこで2月7日に村田茂樹鉄道局長が県に出向き、川勝知事に監視体制の準備について説明した。川勝知事も賛同し、「リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」が新たに設置されることになった。JR東海の宇野護副社長の言葉を借りれば、「1つステージが進んだ」ということになる。
その初会合が2月29日、国交省で開催された。座長の矢野弘典氏は公益財団法人産業雇用安定センターの会長であるが、静岡県の一般社団法人ふじのくにづくり支援センターの理事長も務める。同センターは2015年に発足し、静岡県の土地公社、道路公社、住宅公社の総務関連業務などを担う。2016年夏の県の広報誌には矢野氏、川勝知事、およびインドの元上院議員の3者による鼎談が掲載されており、矢野氏が川勝知事と親交があることがわかる。
一方で、矢野氏はNEXCO中日本の元会長として、任期中には東海北陸自動車道・飛騨トンネルの工事を完成させている。飛騨トンネルは全長10.7km。完成時点では関越トンネルに次ぐ国内2位の長さを誇った。しかも最大土被りは1000mで工事の難易度はリニアの南アルプストンネルに匹敵する。つまり、矢野氏は県とつながりが深く、トンネル掘削の実務にも長けているという点で県と国、双方が納得する絶妙な人選といえる。
矢野氏を座長に任命した理由について、国交省の担当者は「選定理由やプロセスについて答えは差し控える」としたが、「飛騨トンネルの掘削経験がある」という事実を挙げた。国は矢野氏の実務者としての手腕に期待しているようだ。森貴志副知事は矢野氏を「申し分ない。静岡をよくご存じで公平中正にやっていただける。心強い」と評価した。
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