JR東日本「水素電車」2030年度導入へ残る課題 安全面は問題ないが、営業仕様や運行区間は?
これまでもJR東日本は蓄電池電車のEV-E301系、ディーゼルハイブリッド形式で走行すると同時に排気ガス中の有害物質を低減するシステムも取り入れたHB-E210系などの環境配慮型車両を開発し、営業運転を行っている。ただ、ディーゼルハイブリッド車両はCO2排出がゼロになるわけではないし、蓄電池電車は1回の充電で走行できる距離が30km程度と短い。これに対してひばりはCO2を排出せず、航続距離も140kmと長い。
JR東日本は2006年ごろにも燃料電池ハイブリッド車両を開発していた。しかし、そのときは客を乗せない想定で、正確に言うと旅客車両ではなかった。それに対して今回のひばりは客を乗せる電車として製造している。そのため、車内には普通の車両と同じ座席や吊り革が設置されている。
実際に乗ってみたが、振動や騒音などの乗り心地は普通の電車とまったく変わらない。JR東日本の担当者に「プロなら普通の電車との違いがわかるか」と尋ねてみたら、「燃料の水素と空気中の酸素を反応させて電力を発生させる際に水が生成され、床下に放出されるので、駅停車時に水蒸気を放出する“シューッ”という音が聞こえるかもしれない」とのことだった。プロでもこの程度の違いしかない。ちなみに運転台を覗いみてたが、普通の電車と変わらなかった。
なぜ鶴見線と南武線で試験?
海外ではフランスのアルストムが水素燃料電車の運行をドイツ北部ですでに行っており、その点でJR東日本が世界で先行しているというわけではない。ただ、海外と日本の違いとして、日本の車両は海外と比べると一回り小さく、屋根の上に水素タンクを搭載するスペースが少ないため、タンク圧力を高めて密度を高め充填量を増やし航続距離を長くしているという特徴がある。
アルストムの水素燃料電車は35MPa(メガパスカル)で充填するが、ひばりは70MPaと35MPaの2通りで試験中。ひばりの航続距離は35MPaなら約70kmだが、70MPaなら約140kmと2倍になる。省スペースという日本が得意とする技術の実用性を検証しているのだ。
ひばりは2022年3月から鶴見線、南武線およびその支線で実証試験を行っている。この地を試験走行の場に選んだ理由の1つが、川崎市、横浜市と神奈川県がCO2削減に積極的に取り組んでいるからだ。たとえば、京浜臨海部で風力発電により製造した水素を貯蔵、圧縮するシステムを整備し、そこで製造した水素を京浜臨海部で稼働する燃料電池フォークリフトに使用し、従来比80%以上のCO2削減を目指すという実証実験を行っている。JR東日本はこの仕組みをひばりの実証実験に活用できると考えた。
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