JR東日本「水素電車」2030年度導入へ残る課題 安全面は問題ないが、営業仕様や運行区間は?

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また、南武線は時速90km程度の高速走行が可能、一方の鶴見線は駅間が短く時速40km程度にとどまるという違った特徴を持つ。両方の区間を走らせることで、水素ハイブリッド電車がどのような区間に適しているのかを見極めたいという。

今後は夏場における冷却性能の向上や多くの客が乗っていることを想定した荷重試験などを行う予定だ。実証実験は2024年度でいったん終了。その後は必要な改良を施し、「2030年度の営業運転を目指す」とJR東日本研究開発センター、エネルギー・環境ユニットの藤井威人ユニットリーダーが意気込みを示す。営業運転を前提として改良が施されるとしており、水素の搭載量をいかに増やすかが課題という。「現在はいろいろなラインナップの水素タンクが開発されており、どういう組み合わせで屋根上に乗せるかを検討する」という。

JR東日本研究開発センター 藤井氏
FV-E991系について説明するJR東日本研究開発センター、エネルギー・環境ユニットの藤井威人ユニットリーダー(撮影:尾形文繁)
FV-E991 水素貯蔵ユニット
屋根上にある水素貯蔵ユニット(撮影:尾形文繁)

どんな路線で営業運転?

気になるのは、水素ハイブリッド電車が営業走行する場合、どの区間を走るのかということだ。藤井ユニットリーダーはこの問いに対し「発言は控える」としているので、推測をしてみる。

まず、このまま鶴見線や南武線に導入する可能性についてだが、どちらも電化区間である。電車もCO2排出とは無縁ではないので電化区間に導入してCO2排出を完全にゼロにするという考え方もあるが、そうするとすでに張られている架線の維持コストと二重投資になる。また、電化区間におけるCO2削減手段としては再生可能エネルギーに由来するCO2フリー電気を活用するなどの方法もあるので、電化区間にあえて導入するメリットは乏しい。

最優先されるのはディーゼル列車が走る非電化区間だろう。距離が短い区間は蓄電池電車で対応可能だとしたら、営業距離が30km以上の非電化区間ということになる。

FV-E991 車内モニター
電気と水素の流れを示す車内のモニター(撮影:尾形文繁)

また、高いコストをかけて開発しているので、存続が危ぶまれるような閑散線区に導入されるということも考えにくい。ある程度の利用者が見込める区間に導入されるのではないか。

ただ、「それだけで決まるものでもなく、さまざまな要因がかかわってくる」と、JR東日本の担当者が言う。車両同様に重要なのが、水素の供給手段をどうするかだ。今回の実証実験ではトラックに搭載した移動式水素ステーションを用いているが、営業運転では恒久的に設置することになる。

HYBARI ロゴ
車体の側面に入った「HYBARI」のロゴ(撮影:尾形文繁)

国は水素燃料電池自動車の普及に向けた水素ステーションの最適配置に向けた検討を行っている。JR西日本は水素燃料電池列車の開発と合わせ、駅に水素ステーションを設置して鉄道だけでなくトラックやバスにも水素を供給することを検討している。鉄道と自動車用の水素ステーションが共存できればコスト的にもメリットは大きい。JR東日本はこうした動きもにらみながら導入区間を決めていくはずだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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