半導体ルネサス、「異質の巨額買収」の裏に危機感 9000億円弱で電子回路設計ツール企業を買収
ルネサス製品を用いた電子回路の検証は現状でも可能であり、その意味でルネサスはアルティウムの提供するプラットフォームの参加者だ。だが巨額を投じて完全子会社化するのは、「参加者としてでは少し踏み込み不足」(柴田社長)だと感じていたからだという。
ルネサスは現在の柴田社長体制下になった2019年以降、同社が「ウィニング・コンビネーション」と呼ぶ戦略を進めてきた。「ルネサスの半導体を組み合わせることでこんな機能が実現できる」と提案し売り込んでいくことで、半導体単品とは異なった付加価値を生み出していく戦略だ。
必要な製品ラインナップを増やすため、この数年間は数百億〜数千億円規模で半導体メーカーの買収を相次いで行ってきた。そうして手に入れた製品群をテコに、収益性は大幅に改善。赤字体質にもがいていたかつての姿からは一変、業績と株式市場からの評価ともに完全復活を果たしている。
こうした経緯を踏まえれば、ソフトウェア企業であるアルティウムの買収は畑違いともいえる。「ルネサスはいったいどこへ向かおうとしているのか」――。買収会見に参加した記者や証券アナリストの関心は、その一点にあった。
ものづくりの工程が変化
「従来であればメカだけで事足りた製品の機能も、エレクトロニクスで決まるようになってきている。一方で、購入品が主流のメカ設計と違ってエレクトロニクスの設計では部品を組み合わせる専門知識が不可欠。だからこそ幅広い産業のプレーヤーが使いやすいツールを、プラットフォームとして提供していきたい」
柴田社長が会見で語ったのは、半導体・電子部品と、ルネサスが主顧客とする自動車や産業機械メーカーとを取り巻く環境の変化だ。製造業に強いコンサルティング会社、アーサー・ディ・リトルの赤山真一パートナーも次のように解説する。
「AI(人工知能)やソフトウェアを扱う企業が最終製品を企画し、それからハードウェアを手がける企業にものづくりを任せる、というケースが増えている。その場合、企画段階からシミュレーションで検証できることが重要。自動車や産業機械が“AIの塊”に進化していく中、ルネサスはこの動きについていくと決めたのではないか」
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