清水建設「女子社員の寝坊で炎上」に潜むギャップ 動画をしっかり見ると印象も変わるが…
そして報道には、ずるい側面もあることを忘れてはならない。取材対象からの干渉は排除する一方で、編集によって、いかようにも味付けできるのだ。同じ「カメラを通したリアル」を届けるのでも、BGMやナレーションの声色、テロップのフォントや配色などが異なれば、受け手の印象も変化する。
今回についても、拡散されているキャプチャー画像と、実際の映像を見比べると、印象は大きく変わってくる。広報担当者による苦言も、テロップでなく声で受け取ると、部署を離れた「人生の先輩」として言ったように感じるのだ。
企業の窓口としては、どこか「言うとマズいよな」と思いながらも、いま言わないと意味がない。つまり、世間とのギャップを認識しながらも、「あえて」叱ったのではないか。声のトーンから、そんな葛藤を感じたのは、筆者だけだろうか。
また、「気をつけてください」と一言のみだった上司も、さまざまな思いがありながらも、熟慮の末にのみ込んだようにも見える。
そもそも清水建設の立場を考えれば、洋上発電の大プロジェクトを全国にアピールできる格好の機会だ。ちょっと不都合なシーンが流れたとしても、それ以上のリターンが得られる。てんびんにかければ、メリットのほうが大きいだろう。そう考えると、少なくとも放送時点では、テレビ東京と清水建設はWin-Winの関係性と言える。
若手社員へのケアが今は重要だ
それだけに心配なのが、若手社員のケアが十分になされるかどうかだ。これから現場監督の道を進んでいくうえで、各地で「寝坊の子だ」と指をさされ、職人からもナメられるおそれがある。ひとりに負わせるリスクとしては大きすぎやしないか。
顔や名前を出して、取材に応じたのは彼女自身だ……と言えばそれまでだが、企業に所属している以上、上司や関係各所から要請されれば、なかなか断りづらいはずだ。また取材当時は前向きだったとしても、意図せぬ形で炎上したことにより、後悔している可能性はある。
後進にも影響が出かねない。たとえば今春の入社を控えた内定者は、新生活の不安に加えて、ネガティブな企業イメージを抱くことになる。この炎上は「避けられた炎上」だっただけに、なおのこと残念に思える。
社内の理屈ではなく、対外的にどう見られるか。その視点を持たない限り、ドキュメンタリー取材に手を出すのは、あまりオススメできない。ときには「広告出稿していたほうが安かった」と思うような代償を払わされてしまうのが、「報道」の魔力なのだ。
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