相続税も圧縮?大正製薬の「MBO」は誰のためか 7100億円を投じる「上原一族」には複数の利点

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大正製薬の自己資本比率は83.1%(2023年9月末時点)と財務体質は盤石である一方、事業の状況は芳しくなかった。ここ数年、柱である市販薬事業は厳しい競争にさらされ、医療用医薬品事業の不振も重なり、利益と株価は低迷していた。

そうした背景もあってか、2023年6月の株主総会では上原明氏と上原茂氏の取締役再任に対する賛成率はそれぞれ74.72%、87.91%と、9割超を維持していた2年前と比べ大きく下落している。

上場している以上、業績や会社の価値を上げられなければ、一般株主やファンドなどの圧力にさらされる。早稲田大学大学院経営管理研究科の服部暢達・客員教授は「(直近の大正製薬の)収益性の低さはトップ交代に値するが、オーナー系企業であれば簡単には辞めないだろう。そうであれば、市場から退出するほうがよいのではないか」と指摘する。

上原一族にとって、MBOによりその支配体制を確固たるものにできるメリットは大きいだろう。

上原家を悩ませてきた相続税

さらに、今回のMBOが上原家の“相続税対策”となる可能性も見逃せない。

大塚製薬のオーナーである上原家の家系図

3代目社長である上原正吉氏は、1960年代の長者番付で1位になったこともある資産家だった。当時の新聞報道によると、1983年に正吉氏が亡くなった際の遺産は約680億円に上った。しかし遺産の多くを大正製薬の株式が占めた関係などで税負担も大きく、息子の昭二氏は約250億円の相続税を納めたという。

その昭二氏が、次世代への相続に頭を悩ませていたとしてもおかしくはない。1990年代には、子の明氏ではなく3人の孫に保有株式の一部を生前贈与していたという報道もあり、早くから相続税対策を講じていたようだ。

現在96歳の昭二氏は、2023年9月時点で9.35%の株式(株価8620円で約660億円分に相当)を保有していた。仮に大正製薬が上場したまま昭二氏の保有株の相続が発生すると、株価8620円で単純計算した場合、300億円超の相続税を納める必要がある。だが、相続や事業承継に詳しい税理士の岸田康雄氏によれば、今回のMBOを絡めたスキームで、この相続税を大幅に圧縮できる可能性があるという。

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