金融の正常化は、経済の長期的なパフォーマンスを向上させるために、短期的には経済に負のショックを与える政策である。
短期的な効果は、前項で述べたようなものであり、はっきりと予測できるものが多いので、抵抗が大きい。
日本経済が衰退した基本的な原因は、このような短期的効果だけが考慮され、過度の金融緩和が長期的な経済の生産性に与える負の影響を無視されてきたことである。そうした政策が20年、30年の長きにわたって続いたために、日本経済はここまで弱体化したのだ。
しかし、政治資金問題などで弱体化した岸田政権が、果たして経済界を説得して金融正常化を支えられるかどうか、疑問だ。本格的な金融正常化は、現在の日本の政治状況の下では極めて困難な課題だと考えざるをえない。
もし、短期的な利害が優先されて金融正常化がさらに引き伸ばされれば、日本経済の衰退は決定的なものになってしまうだろう。日本は極限まで弱体化し、立ち直せなくなってしまう。日本は、いまその瀬戸際に立っていると考えなければならない。
こうした状況下で何よりも必要なのは、なぜ金融の正常化が必要なのかを、日銀が国民にわかりやすく説明することだ。
日銀債務超過問題をどう処理するか?
なお、日銀は、これまでの金融緩和の過程で大量の国債を購入し続けた。その結果、国庫短期証券を除く国債・財投債の日銀の保有比率は、2023年9月末で53.86%という異常な事態になっている(2023年7―9月期の資金循環統計による)。
この状態で長期金利が上昇すれば、巨額の国債評価損が発生する。実際、2023年4〜9月期決算では、日銀が保有する国債の含み損は9月末時点で10兆5000億円となっている。
この問題は多分に名目上のものであり、日銀の業務運営に実質的な影響を及ぼすものではないのだが、放置しておけるものでもない。経済に攪乱的な影響が及ばぬよう、慎重な対処が必要だ。
なお、金融正常化として、以上では、金利の問題を中心にして論じた。もう一つ重要なのは、日銀が巨額のETFを保有しているという事実である。このような政策は、中央銀行としては、きわめて異例のものであり、OECDの対日政策審査で強い批判の対象となった。ETFの購入を停止し、残高を減らす(できれば、すべて売却する)ことが必要だ。
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