能登地震で今なお電源切れ「地上波テレビ」の限界 過疎地向け小規模中継局はなぜ復旧に遅れ?

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それでも、能登半島地震では、一部中継局で停波が長引いてしまっている現実がある。現地へのアクセスの悪さと予備電源がバッテリーであったことが原因だ。

防災の観点からいえば、中継局をアクセスしやすい平地に置いたり、バッテリーより長持ちする自家用発電機やタンクを設置したりしていれば、停波を回避しやすい。

しかしその分、コストは増える。平地に中継局を置くと、電波の到達範囲が狭くなることから設置局数を増やす必要があるほか、非常用電源を充実させると設備や保守費用の増加も見込まれるためだ。

近年、人口減や少子高齢化を背景に、広告費の減少など地方局を取り巻く経営環境は悪化しており、放送設備の維持にかかる費用の負担には限界があるとみられる。過疎地向けの小規模中継局ならば、なおさらだろう。

鈴木教授は「全中継局がどんなことがあっても停止してはならないとするのは、現状では非現実的だ」と話す。防災と費用の折り合いをどうつけるか、難しい問題を抱えている。

中継局の共用が進む可能性も?

では今後、大規模災害に備えてテレビ局が打てる手はないのか。

有効だと考えられる1つの策は、放送各社による中継局の共同利用を進めて効率化を図るなど、放送局間での連携を強化していくことだ。人口減少地域や山間部に設置する中継局のコスト軽減は業界共通の課題であり、放送局はこれまでも中継局の共同建設など実質的な協力を進めてきた。

2023年5月には、複数の放送局が中継局を共用できるように促進する関連法案が成立し、放送局の設備共用に向けた機運はさらに高まる。これを機に、1社当たりの負担コストを低減しつつ、小規模局向けの防災対策を充実させることは可能ではないか。

災害が起きた際の衛星放送の利活用も一手になりそうだ。長引く地上波放送の停波を受け、NHKは1月9日以降、BSの3チャンネルを活用し、地上波を視聴できない地域にニュースなどを届ける取り組みを始めた。

この衛星波は3月末に停波予定だった帯域で、今回のタイミングで利用できたのは、まさに「不幸中の幸い」。過去の総務省の有識者会議では、災害時に活用できる衛星波を確保しておくべきではないかといった話も出ており、今後災害対策として衛星波の活用が議論される可能性もある。鈴木教授は「レジリエントな(強靱な)備えを行うためには、衛星波などの活用も含めて放送の多様性を確保するための全体設計が必要ではないか」と指摘する。

過疎地向けの小規模局が抱える限界も浮き彫りにした、今回の震災。放送を取り巻く環境が厳しくても、災害時にこそ一部の人々が取り残されることがあってはならない。教訓をどう次の防災に生かしていくのか、今後問われることになる。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞東京本社の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、ITベンダー業界を中心に取材。情報通信、メディア、都市といったテーマに関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んでいた。

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