日本人が知らない、ルーマニア鉄道の「20世紀感」 インフラ整備進まず残る「古きよき欧州」の面影
そのため、公共交通機関をはじめとする社会インフラへのテコ入れもあまり進まず、鉄道インフラの劣化は著しい。国鉄のCFRは1998年に上下分離化され、インフラ保有・旅客輸送・貨物輸送など5つの法人に分割された。現地では「近代化と線路や駅のメンテナンスが喫緊の課題」と唱えられ続けているものの、機関車をはじめとする鉄道車両の多くは経年劣化が進んでいる。
結果として、列車の平均時速は40km台前半にとどまっており、冷戦時代(つまり1989年以前)の実績よりも遅い。旅客・貨物輸送量も減少が著しく、1989年のルーマニア革命直後に輸送シェアで60%を占めていた鉄道は、近年の統計では20%以下に落ち込んでいる。
ルーマニアでは2017年1月から2021年7月までの4年半の間に141件の鉄道事故が発生したとされるが、そのうち車両の支障により起きた事故はわずか2件だったという。これはすなわち、インフラの老朽化による事故が頻発している状況と言わざるを得ない。
冷戦期の機関車活躍、元フランスの中古も
その一方で、鉄道インフラにあまり手が入れられなかったことから、現地の駅へ行ってみると「前世紀の欧州」にタイムスリップしたかのような実感を覚える。
ルーマニア最大の鉄道ターミナルは、首都ブカレストにあるブカレスト北駅(Gara de Nord/ガラ・デ・ノルド)だ。同駅はたまたま同じ名前を持つパリ北駅の建物配置を参考にして建設、新橋―桜木町間に鉄道が走り始めたのと同じ1872年に竣工している。19世紀末期には、オーストリア=ハンガリー帝国のフランツ・ヨーゼフ1世の来訪を期待して、専用の迎賓室が設けられた経緯もある。
線路配置は頭端式ホーム、つまり全ての線路の末端が駅舎に突っ込む形で並んでいるため、街路の歩道から列車に乗り込むホームまで段差がない。近年は欧州でも機関車牽引列車から電車やディーゼルカーへの置き換えが進んでいるが、北駅は電化こそされているものの、電車を見かけることはまれだ。
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