国内の結核患者「外国出生者の割合増」が示す意味 2021年に「低蔓延国」になった日本、新規は1万人

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感染症は、ヒトの免疫システムと菌(あるいはウイルス)との戦いだ。結核の場合、感染したからといって必ず発症するわけではない。発症しなければ、人にうつすこともない。

結核を予防するには、医療者が病院で使うような高性能のマスクが必要になる。また、コロナ禍が過ぎ、マスクをする習慣が減ってきた今、マスクで結核を予防するのは現実的ではない。

したがって、菌が体内に侵入しても感染しない対策(感染予防)だけでなく、感染しても発症しないための対策(発症予防)も大切になる。

いずれの対策でも、免疫力を高める生活習慣を整えることが大切だ。食事や睡眠をしっかり取って、適度な運動を行う。これらは生活習慣病の予防にもなる健康的な生活の基本だが、発症の予防にもつながる。

世界的に見れば社会的な大問題

石川啄木や正岡子規といった、将来が期待される若者たちがあっという間に発病し、死に至る原因となった結核。現代の日本では、栄養状態がよく免疫力が高いことから、前述した10%のグループの若者が死に至ることは少なく、命を落とすのは高齢者だ。

しかし、発展途上国では依然として若者が命を落とす。

「結核は世界的に見れば社会的な大問題。貧困とも関連し、特に発展途上国では生産人口である若い世代が発症し、社会経済発展の阻害要因にもなっている」と尾身医師。

WHOは、2035年までに結核を制圧する目標を掲げるが、実現には2つの対策が求められる。1つは、発症の目印となる血液のマーカーの解明、もう1つは、成人用の感染予防ワクチンの開発だ。

結核のワクチンにはBCGがある。これは子どもの結核の重症化を予防するものの、結核菌を克服するワクチンはまだできていない。ウイルスである新型コロナではmRNAワクチンがスピーディーに作られたが、細菌である結核には応用できない。世界レベルで臨床試験が始まってはいるが、実用化にはまだ時間を要すると考えられる。

「日本では、がんや糖尿病といった生活習慣病に関心が偏りがちですが、同じように結核も含めた呼吸器感染症に関心を持つことが大切」と尾身医師は強調する。

新型コロナのパンデミックがこれだけ社会にインパクトがあったのは、呼吸器感染症だからだ。だが、日常が戻り、人々の関心はだんだん薄まっている。

森林破壊や地球温暖化、自然災害などの影響で、ウイルスや細菌を媒介する自然との距離が近くなり、感染症のリスクは高まっているにもかかわらず、感染症を専門にする医師や研究者が極めて少ないのが実情だ。

実際、日本では結核を知らない、治療を経験したことのない医師も増えている。「医学部や看護学部の教育の段階から、この病気を見直すと同時に、一般市民への啓発が欠かせない」と尾身医師は言う。

人が動いたぶんだけ、呼吸器感染症のリスクは高まる。結核をはじめ、呼吸器感染症という社会課題と向き合うには、国際社会の連携と協力が欠かせない。かつて多くの命を奪った国民病を克服した日本が果たせる役割は、決して小さくない。

今村 美都 医療福祉ライター

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いまむら みと / Mito Imamura

1978年、福岡県生まれ。がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。

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