配信ドラマが「超アンリアル」で支持を得る背景 現実と向き合う「超リアル」との二極化が進む

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2023年に起こったことが2024年に影響を及ぼすことの一つに、全米脚本家組合(WGA)と映画俳優組合の米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG―AFTRA)の同時ストライキが挙げられる。リサーチ会社Omdiaによると、ストライキの間にアメリカ全体で160以上の作品が完全に制作が止まっていたという。

例えば、Netflixは世界的人気シリーズ「ストレンジャー・シングス」の新作を含む約25本の制作が停止した状態だった。配信計画が狂い、大きな痛手となったことは間違いないが、Netflixの総コンテンツ投資額のうち、アメリカが占める割合は58%である。

他のグローバルプラットフォームと比べて他国がカバーする割合が大きいことから、影響期間は比較的短く済むだろう。むしろ、Disneyなど配信だけでなくテレビネットワークを持つメディアはストライキに加えて、広告収入の落ち込みなど長期的なトレンドの影響を受けそうだ。Omdia所属アナリストのティム・ウェスコット氏は「アメリカTVネットワークの企画本数の衰退は今後も続く」と分析している。

細分化が進む配信の世界

状況が刻々と変化しつつあるなかで、柔軟に攻めた取り組みが引き続き求められていくだろう。意外とそれは視聴者ニーズとも合致しているようだ。

というのも、視聴者は動画配信サービスに「選べることの楽しさ」を求めているからだ。Omdiaが2023年6月に日本を含む主要12カ国で実施した約3万件のサンプル調査によると、動画配信サービスの加入理由のうち、「コンテンツが豊富だから」という回答が全体の45%を占める。オリジナルコンテンツの本数や使い勝手なども重要な理由にあるものの、コンテンツの選択肢の豊富さと多様なジャンルのコンテンツが揃っていることが重要視されていることがわかった。

ドラマでいえば、今は超リアルと超アンリアルがキーワードとなるものがトレンドを引っ張りつつ、配信コンテンツ全体では細分化が進んでいることも事実だ。視聴者も多様なコンテンツを求めているなかで、チャレンジングなものを受け入れられる土台があるということだ。

これは非英語コンテンツにチャンスが広がっているとも言える。「イカゲーム」の世界ヒット以降も韓国コンテンツがリードし続け、良質で多様なジャンルが支持されていることが証明している。さらにアジアの中で韓国に追随していこうとする動きはここのところ高まっている。インドやタイ、インドネシア、台湾、香港のドラマ制作者に直接話を聞く機会があるなかで実感していることでもある。

例えば、Netflixインドネシアオリジナルの「ザ・ビッグ4」を手がけたティモ・ジャヤント氏が自身のストーリー作りについて「すべての人を喜ばせることはできない。だから、たとえ全世界配信を前提としたNetflixにおいても普段から自分がやっていることをやり、ローカルの視聴者に届けることが重要だと思う」と潔く答えていたのが印象的だった。

世界トレンドを意識しすぎず、それぞれの得意ジャンルを生かすかたちはアジアの制作者の共通認識となりつつある。だが、これはあくまでも現時点の状況である。数年後には、圧倒的な強さを示すユーチューブの影響によって文化や国境の壁を越えていく可能性は高い。グローバルに活躍できるチャンスを失う前に、2024年こそ時代の波に乗るべきときなのである。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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