配信ドラマが「超アンリアル」で支持を得る背景 現実と向き合う「超リアル」との二極化が進む

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また実験的なユートピアのコミュニティを舞台にAI監視社会を描くドラマ「Concordia」は、企画・制作をドイツの老舗配給会社ベータ・フィルムとドイツ公共放送傘下のZDFスタジオ(旧ZDFエンタープライズ)の2社が設立した新合弁会社インタグリオ・フィルムズが中心となって作り上げたものだ。

ZDFスタジオの国際共同制作ドラマ担当ヴァイスプレジデントのロバート・フランク氏らがMIPCOMカンヌ2023で登壇したセッションでは、各国のパートナー企業から計4000万ユーロ(約63億円)の資金を調達する計画を立て、実現させた経緯があることが明かされた。

そのパートナー企業の1社に日本テレビグループ傘下のHuluジャパンが含まれる。こうした座組みから、ドイツでは公共放送ZDFでの展開が見込まれ、日本ではHuluジャパンで独占配信されることが決定している。当然ながら世界展開も視野に入れている。

これもまたコンテンツの価値を最大化させることが目的にある。前出のフランク氏は「プロジェクトを立ち上げる段階で重要なことは、市場で求められるIPコンテンツを見きわめることにある。

だが、国際的に展開する大型テレビシリーズを実現することは簡単なことではない。何でもいいわけではないからこそ、どのように構築していくべきかに注力している」と語っていた。柔軟な体制で諦めずに冷静に攻める。まさに世界のTVコンテンツ市場におけるスタンダードな考え方だと感じた。

米ストライキの影響は

そもそも配信と地上波のボーダレス化が進んだ背景を考えると、Netflixらグローバル配信勢の台頭によって、コンテンツエコノミーが売買流通から大量生産へと移行したことがきっかけにある。流通革命と言われるほど、ここ5~6年で起きた大きな変化だ。また大量生産といっても「安かろう悪かろう」ではない。配信オリジナルドラマの制作費は高騰し、主力の連続ドラマは1話10億円以上のプレミアムドラマと言われる作品が増えていったのだ。

同時に、企画の目利きから開発、制作まで機能するコンテンツ制作の実権を握るプロダクションにもフォーカスが当たる。総称して「スタジオ」と呼ばれるものだ。グローバル配信勢はもちろんのこと、イギリスBBCをはじめ欧州ではスタジオ組織が続々と作られている。

これらの動きによって、コンテンツIPを核としたバリューチェーンが重要視されていき、配信コンテンツも独占ばかりでなく、非独占を選択する動きが活発化している。つまり、メディアの境目が意味をなさないものになっているというわけだ。

急激に成長したSVODモデルが2022年頃から頭打ち状態となったことも大きいだろう。SVODに限ったことではないが、ビジネスモデルの単一化思考に危険信号が灯り、定額制モデルをベースに広告モデルの導入を開始する動きまで見られる。

そればかりか、「FAST(ファスト)」と呼ばれる広告モデルの新たな配信サービス形式までこの1年で世界的に広がっている。ただし、日本を含むアジアに限っては現状の配信モデルのまま成長段階にあり、多様なビジネスモデルが受け入れられるかどうかは未知数である。とはいえ、この5~6年の変化を見る限り悠長に構えるべきではない。

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