この頃のスタバを語る証言の中でよく登場するのが「本物のコーヒー」という言葉である。彼らが自身の店で出すコーヒーをどのように捉えていたのかがよくわかるだろう。
スタバの経営理念は現在でも続いている
さて、こうしてスタバの最初期の姿を見ていくと、それは現在われわれがイメージするスタバの姿と大きく異なることに驚かされる。
初期のスタバは、シアトルという土地に根差しながら、コーヒーの品質に徹底的にこだわるローカルなコーヒー焙煎店だった。そして、この時点でスタバはグローバルチェーンとしての姿をまったく持っていなかった。もちろん、フラペチーノも提供していない。
つまり、前回私が指摘したような「矛盾」を持っていなかったのである。ローカルに根差し、シアトルに数店舗を構える個人主義のコーヒー店。もちろん、フラペチーノも提供されていない。そこにはなんの矛盾もない。
そもそも、フラペチーノは1994年にスターバックス社がコーヒーショップ・チェーン「コーヒー・コネクション(Coffee Connection)」を買収したことから提供されるようになったビバレッジだ。買収の際に、コーヒー・コネクションがソフトクリームマシンで作っていた、冷たいコーヒー飲料「フラペチーノ」の権利も、同社から手に入れたのだ(公式サイトによる)。なので、もともと発明したのも、スタバではない(当然、今はスタバが開発しているが)。
ここで指摘したいのは、初期のスタバが持っていたローカル志向やコーヒーへのこだわり、といった思想は、スタバがグローバルカンパニーへと成長した現在でも重要視されている、ということだ。
歴史学者・文化研究者のブライアン・サイモンは『お望みなのは、コーヒーですか?』の中で、スターバックスが「本物のコーヒー」を重視していることを強調している。そして実際、スターバックスジャパンの「Our Mission and Values」には「私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます」とあって、ここに見られる「人間らしさ」の重視もまた、こうした思想の延長線上にあると考えられる。
そしてスタバが持つ「矛盾」はこの、初期スタバが持っていた経営理念とその後のグローバル展開の際に起きたものなのではないかと私は考えている。いったいどういうことか。
次回詳しくつづるが、あえて先に核心に触れるのであれば、「顧客の要望に合わせるように店を作り、柔軟に変化させていったからこそ、スタバには『矛盾』が必然的に生じたのではないか?」ということだ。
ということで、次回は、スタバがグローバルチェーンへと至る過程を追いながら、そこでどのようにさまざまな「矛盾」が生じたのかを見ていこう。
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