井上:明確な世界観と技術の発達史という歴史観があっての判断ですね。革新的な事業を創るためには、それを支える「世界観」「歴史観」「人間観」が必要だと言われます。
瀧口:ところが、多くの日本人は、推論することを忘れてしまったんです。
推論とはリスクを取ることです。失われた30年というのは、推論を許してこなかった。「A社もB社もC社もこういうことをやっていますが、それはよくない。こちらをやりましょう」と言うと「どこもやっていない」と却下される。
そういう社会だから、次世代のAIもまだ出てこない。みんなが「右に行こう」と言っているときに、「左に行けば世の中が変わるから、左だ」と言えるでしょうか。これから日本で画期的なものを生み出すためには、このようなマインドセットが必要です。
デブリのデータを扱うといった瞬間に、世界を変える可能性が生まれる。世の中を変えるもの、社会的なインパクトが大きいもの。そういう仮説を導出できるかどうか。これは、事業を創るスタートアップにとっても、それを評価するベンチャーキャピタリストにとっても、一番重要なポイントです。
「いつになれば世の中が動くのか」を見極める
井上:推論型の仮説において難しいポイントは何ですか。
瀧口:時間ですね。
なぜかというと、私たちは「そういう世の中が来る」と推論して仮説を立てますが、産業というのは、ゆっくりとしか動かなかったり、意外にも早く動いたりする。スピードやタイミングにかかわる時間の要素は解決しようがない。最大のリスクです。
たとえば、メタバースの世界で使われるヘッドマウントディスプレイというのがあります。私たちは匂いも必要になるだろうと、匂いのベンチャーに投資したのですが、失敗に終わりました。現実はまだそこまで来ていなかったんです。
2018年から衛星通信にも投資していますけれども、ホットになったのはこの1年ぐらいで、最初の4年間はなかなか立ち上がらなかった。
重要なのは産業のスピードです。奇異なビジネスモデルでも、産業と時間がマッチするとヒョイっと立ち上がって成長しますから。タイミングを見極めるためにもリサーチをしっかりやって、その業界、産業の知識を持った上で、仮説推論しなければならない。
井上:ということは、イノベーションを起こす起業家も、それを評価するベンチャーキャピタリストも、リサーチの力をしっかりとつける必要があるということですね。
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