井上:このような役割を果たす方は、どのように呼ばれるのですか。
瀧口:リサーチ(研究)とビジネスをコーディネートする人は、一般的にプロジェクト・マネジャーとかプログラム・マネジャーと呼ばれています。
先に紹介したデブリでも、デブリをデータベースにするというストーリーを語ってくれた。本当にゴミのようにデブリが映っていて、その中に、衛星があるとわかったんですね。どの国がいつ打ち上げたか、それぞれの衛星の登録番号までわかると説明されました。後にSpaceXがこのサービスを利用することになります。
さらに安全保障上の観点からこのビジネスが成長しうると私たちは思い、資金調達の空白を埋めました。これがプロジェクト・マネジャーから触発された世界です。
プロジェクト・マネジャーをしている人というのは、ある専門分野の研究室で一生懸命研究した人、そしてビジネスとして実践したことがある人です。純粋な大学の職員という方ではないですね。何かいい機会があれば、その職を辞めて起業するぐらいのマインドセットを持っておられます。
私も自分で仮説を持つようにしています。ある案件を見たときに、そこに自分でデッサンできるようにしている。だから、彼らとストーリーを描き出すことができます。
大胆な前提で早期に投資するVCが求められている
経営学者・井上達彦の眼
ビジネスの世界では、ロジカルシンキング=「論理的思考」が大切だと言われる。私は漠然と「論理的に考えるということだな」と早合点していたのだが、もっと深い意味が含まれていた。論理は飛躍を可能な限り小さくして検証するのに対し、思考は飛躍を許容することで何かを生み出すというのだ。
ということは、飛躍を許さない論理は創造性を阻むことになる。創造的なロジカルシンキングは矛盾した考え方だということにもなる。どうすればよいのか。
東京大学名誉教授の野矢茂樹さんは、論理の王様である演繹を「与えられた情報を最大限に活用して推論することであり、前提から必然の帰結を導くこと」だという。
たとえば「ソクラテスは人間だ」「人間は必ず死ぬ」という2つの前提から「ソクラテスは必ず死ぬ」と導くのが推論である。未来に起こる出来事を正確に予測することができるので、ビジネスの世界でも演繹的な「論理的思考」は歓迎される。
しかし、このような演繹が通用する場面は限られている。なぜなら、ビジネスの世界において確かな前提を置くことができないからだ。
顧客は変わる。下位の欲求が満たされれば上位の欲求が出てくる。競争相手も変わる。戦い方を工夫して裏をかいてくる。インフラも変わる。技術革新がものすごいスピードで進行している。それゆえ、昨日までの前提が、明日以降、5年後も10年後も通用することはない。
その中で、推論していくためには、仮の前提をおいて推論していくしかない。それが仮説思考である。まだ見ぬ未来について、大胆な前提をおいて発想を飛躍させられる。
しかし、飛躍させればさせるほど危うくなる。だから仮説検証のサイクルを小さく速く賢く回す必要がある。ベンチャーキャピタル(VC)のラウンドが、シード、シリーズA、B、Cと分かれているのはそのためである。
アーリーの早期のラウンドでは、投下すべき資金は少なくて済むので、リスクが大きくても投資できる。大胆な推論で仮の前提をおいて、世界を変えるようなビジネスを生み出すチャンスなのである。
逆に、日本国内においてアーリーのVCが発達しておらず、ミドル以降ばかりだとすれば、潜在力のある技術であっても、投資を受けることなく朽ち果ててしまうことだろう。この意味でアーリーステージのVCの果たすべき役割は大きい。
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