「火の技術」を手にした人類が大発展した深い理由 生命と科学技術の進展の基礎はここにある

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火をコントロールする技術を持ったことで、人類は灯り、暖房、調理に火を使うようになりました。

人類のほかに、火を使って料理している動物はいませんよね?

物が燃えること、すなわち燃焼は、人類が知った一番古く、また一番重要な化学変化なのです。

猛獣から自分の身を守るためにも、火は使われました。さらに火を利用して土器や陶磁器をつくり、砂鉄や鉄鉱石から鉄をつくりました。これらはすべて、火の技術の延長線上の出来事です。

人類の生活に決定的な変化をもたらした「火」

火の技術を手に入れたことで起きたことをまとめておきましょう。

① 食生活の変化

火で焼くことにより、そのままでは食べることができなかった魚介類、草木の根、塊茎などが食料に変化しました。また、火で焼くことにより食料の保存ができるようになり、毎日、食料を取りに行かなくてもよくなりました。

② 居住地の拡大

食物が手に入りやすくなり、暖かさも手に入れた人類は、河川や海岸に沿って居住地を拡大していきました。

③ 道具の発明

熱を有効利用するために、さまざまな道具がつくられました。

初めにつくられたのは「かまど」です。最初は、石でつくられたかまどでした。そこから地面を掘ったかまど、粘土でつくられたかまどへと変化し、やがて高温を出せる炉がつくられました。

また、空気を送るためのうちわのようなものが「ふいご」へ進化し、さらに高温の炎を手に入れると、その炎を使って鉱石から金属を手に入れられるようになりました。

④ 炎を使うための道具の発明

炎を使って、物を煮る器がつくられました。初めは、熱に強い土器がつくられ、やがてうわぐすりをかけた陶器へと進化していきました。

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火を使う以前は、自然の産物を道具にしていました。

例えば、動物の骨をこん棒にしたり、小石を削って刃物にしたりして使っていたのです。これらは形が変化しても骨は骨のまま、石は石のままで質的な変化はありません。

ところが、火を利用することによって、自然界の材料を使いながら、質的に変化したものや、天然のままではほとんど存在しない物質をつくり出し、手に入れるようになりました。

この質的な変化は化学変化であり、人類は火を使って化学変化を起こすことができるようになったともいえます。

火は人類の生活に、決定的な変化をもたらしたのです。

左巻 健男 東京大学非常勤講師。元法政大学教授、『RikaTan(理科の探検)』誌編集長

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さまき たけお / Takeo Samaki

東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学教職課程センター教授などを経て現職。共著書に『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、
著書に『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書)、『面白くて眠れなくなる人類進化』(PHP研究所)など。

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