中国で「複数の呼吸器疾患」が"同時流行"の深刻度 子どもから全世代、中国全土に感染が広がる

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中国政府にとって頭が痛いのは、次から次にウイルスが流行して大都市の病院を受診する患者が一向に減らないことで、想定外の火種が生まれていることだ。

世界保健機関(WHO)は11月下旬、新たな感染症を速報するプログラムProMEDが「中国北部で未診断の子どもの肺炎が集団発生している」と報告したことを受け、中国当局に詳細の報告を求めたと発表した。

WHOが報告要請した事実を個別に発表するのは珍しい。武漢で新型コロナウイルスの感染爆発が起きた際に、中国当局だけでなくWHOも初動が遅いと批判されたことが念頭にあると思われる。

中国当局は同月23日にWHOとオンライン会議を行い、未知のウイルスによる呼吸器疾患は確認されておらず、医療体制も維持されていると強調したが、呼吸器疾患の流行が世界に知れ渡り、国際的なメンツ問題にも発展してしまった。

「隠蔽」と非難された武漢の二の舞を避けたいのは中国側も同じで、国家衛生健康委員会は11月24日、26日、12月2日とこまめに記者会見を開き、状況を説明している。

北部から全国に感染広がる

だが、複数のウイルスが同時多発する中で感染者は子どもから全世代に、地理的な感染範囲も北部から全国に広がりつつある。12月初めには香港と接する南部の深圳でも呼吸器疾患の流行が始まった。

WHOが関心を示したことで人々の不安も高まり、SNSで「WHOが中国で原因不明の肺炎を確認した」との情報が飛び交い、当局は慌てて否定した。

台湾当局は11月末、高齢者や子ども、免疫力の低い人は中国への渡航を控えるよう呼びかけた。

今のところ呼吸器疾患による死者は報告されていない。しかし短期間あるいは同時に複数のウイルスに感染することによる重症化やウイルスの変異への警戒感はくすぶっており、年末年始にかけて入院者や重症者が増えると予想する専門家もいる。

感染拡大の抑え込みはもちろん、医療体制の確保、国際社会での懸念の払拭、デマの封じ込め……。中国政府が対処すべき課題も複雑化している。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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