病気の日本近代史 秦郁彦著
政治史・軍事史の専門家が新たな分野に挑戦した心意気が全編にあふれる。章のタイトル順に「黎明期の外科手術」「脚気論争と森鴎外」「伝染病との戦い」「結核との長期戦」「戦病の大量死とマラリア」「狂聖たちの列伝」「肺ガンとタバコ」と重いテーマが並ぶが、豊富な資料・データに歴史探索と推理が溶け合い興味深い医学史が生まれた。病気を扱っていながら重苦しさや晦渋(かいじゅう)から遠いのは、専門書でない強みと巧まざるユーモアのおかげだろう。
餓死を含む戦病死が戦死の6倍にも達した大東亜戦争、脚気をめぐる軍と医学者の混乱(森鴎外は最後まで脚気菌にこだわった)、不治の病・結核に取りつかれた薄幸の美女たち、「精神病の国宝的人物」と呼ばれた「芦原将軍」の言動など、医学者や医師の苦闘、患者たちの思いがさまざまに行間から伝わってくる。単なる歴史上の話で終わらず現代へとつながるところもよく、何より豊富な実話とエピソードが楽しめる。(純)
文芸春秋 1850円
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