核燃料サイクル、またも延期
最終試験が続く核燃料再処理施設の完成が延期となる見込みだ。「もんじゅ」再開も控えた今年はサイクル計画が大きく前進するはずだったが、その目算は最初から狂った。
(週刊東洋経済2月9日号より)
日本原燃が青森県六ヶ所村で建設する使用済核燃料再処理施設の完成延期が確実となった。
当初、今年2月の完成を目指し最終試験運転(第1~5ステップ)を続けていたが、現時点でも第4ステップにとどまる。高レベル放射性廃棄物を封入するガラス固化体の製造に予想以上の時間を要するため、溶融炉の点検を行っている最中だ。最終ステップの作業は最低3カ月かかるとみられ、完成は早くて年央だろう。同施設の着工は1993年。延期が正式に決まれば、2003年の完成予定変更から数えて9回目だ。
日本では原子力発電の燃料となるウランがほとんど採れない。そのため、国は使用済燃料を再処理してプルトニウムを回収する「核燃料サイクル」をエネルギー政策の根幹としてきた。電力会社の共同出資で設立された日本原燃の「再処理」はその中核だ。昨年、兒島伊佐美社長は「やっと竣工が見えるところまできたが、百里の道は九十九里をもって半ばとせよとの先人の戒めもある」と慎重姿勢。その言葉が現実のものとなった。
もんじゅは10月再開
実は関係者にとって今年は核燃サイクル計画が大きく前進するはずの年。福井県敦賀市では日本原子力研究開発機構(旧核燃料サイクル開発機構)の高速増殖原型炉「もんじゅ」が10月の運転再開を目指している。再処理施設と並び、プルトニウム燃料を燃やす高速増殖炉計画は核燃サイクルの要。が、95年のナトリウム漏洩事故以来、長きにわたる中断を余儀なくされている。
再処理施設の完成延期でいきなりつまずいた格好のサイクル計画は、これ以外にも各所で遅延が目立つ。高速増殖炉中断の代わりに浮上した「プルサーマル計画」も厳しい。再処理したプルトニウムとウランを混合した「MOX燃料」を軽水炉で燃やすのが同計画。日本原燃はMOX燃料製造工場の建設計画も持つが、国の安全審査が下りず、昨年10月の着工計画は延期。審査がさらに長引くようだと12年10月の完成予定も見直しを迫られることになる。
プルサーマル計画の実行を担う電力業界は、10年度までに16~18基の原子炉に導入する方針を掲げてきた。九州電力や四国電力など地元了解を得て前進する会社もあるが、業界盟主の東京電力は完全停止に追い込まれた柏崎刈羽原発の復旧が最優先で、もはや先導役どころではない。
さらに言えば、六ヶ所村の再処理施設が完成しても年間処理能力は最大800トン。全電力会社が年間に排出する使用済燃料は約1000トンとこれを上回る。原燃は自身の貯蔵施設で約2400トンの使用済燃料を受け入れているが、全国の発電所プールには合計約1・2万トンもの使用済燃料が再処理を待つ状態にある。
そうした状況を尻目に全国の原発は稼働し続ける。少しでも歯車を動かさなければ、サイクルの輪から使用済燃料があふれ返ってしまう。東電と日本原子力発電は共同で新会社「リサイクル燃料貯蔵」を設立し、使用済燃料を一時ストックする「中間貯蔵施設」の建設を青森県むつ市で計画している。これなどは、サイクル計画遅延の歪みを取り繕おうとする最たる例だ。
中間貯蔵施設で時間を稼いでも、再処理後に発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっていない。そのため日本原燃は地元を説き伏せ、「一時貯蔵」という名目で最長50年の貯蔵管理を苦肉の策として行っている。
発電に際し二酸化炭素を排出しない原発は、地球温暖化問題を背景として世界的に前向きの評価がされ始めている。とはいえ、今のように弥縫策をとり続けたまま、日本は核燃料サイクル計画を堅持し続けられるものだろうか。
(週刊東洋経済:井下健悟記者)
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