日本人の給料が上がらない「物凄く根本的」な理由 椎茸と松茸でわかる「賃金が上がらない」深い訳

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1920年の1日の食費は35銭だったが、100年後の2020年は785円。実に2243倍になっている。食費から考えると、当時の1円は現在の2243円になる。

しかし、食べ物それぞれで、価格の上がり方が違う。豆腐は6銭から74円で1233倍。食堂のカレーは15銭から750円に5000倍になった。松茸100gは8銭から4800円と、実に6万倍だ。当時は松茸より高かった椎茸は39銭から170円と、価格は436倍しか上昇していないのだ。

モノの値段を「給料」と比べる

ここまでは、お金を使う場合を考えてきたが、もらう場合はどうだろう。給与所得者の年収はこの100年で、583円から443万円に上がった。実に7599倍になっている。つまり当時の1円紙幣の価値は現在だと7599円になる。

いったいどの数字が正しいのか。当時の1円の価値は今だといくらだといえばいいのか?もちろん、どの数字も正しい。給料に比べて物価が安くなっているのだ。

椎茸は436倍になったが、所得収入は7599倍になっている。所得対比で考えると、椎茸の価格は0.06倍と爆安になっている(436÷7599=0.06)。これは、人工栽培によって効率的に作れるようになったからだ。少ない人手でよくなったのだ。

他の食品もおおむね相対的に安くなっているのは同じ理由だ。豆腐の生産も機械化できるところは機械化して、少ない人手で作れるようになっている。それが価格にも反映されている。

一方で食堂のカレーはそこまで安くはなっていない。食材の価格が安くなっても、食堂でカレーを作る人の労力はそこまで減っていないからだ。

残念ながら、松茸は大量生産できなかった。山に分け入って見つけるしかない。希少になれば見つけるのも苦労するし、価格も上がる。

この100年間、機械化などで生産効率が上がった産業では、価格が安くなった。そのおかげで、消費者としての僕たちは他のことにお金を使えるようになった。例えば、当時は存在しなかった携帯電話やパソコンを購入できるようになった。

一方で、「生産効率を上げる」ことは人々に不安を生む。雇用の喪失だ。現代社会も同じ理由でChatGPTなどのAIの活躍をおそれている。

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