国が控訴「水俣病訴訟」本質は食中毒事件の新見解 環境省は「科学ではない」と大阪判決を問題視
また厚生省が県に対して「水俣湾内の魚介類すべてが有毒化している訳ではないので、食品衛生法の適用はできない」と回答した点について、津田教授は「食中毒事件の実務をみる限り、原因食品がすべて汚染されていることが証明されてから、食品衛生法に基づく措置を実施する、ということはありえない」と問題視する。
その上で「実際はそんな証明を求める前に、営業停止や回収命令を出している。また原因食品すべてが汚染されていなかったことは、食品衛生法に基づく対策が取られた森永ヒ素ミルク中毒事件でも証明されている」と指摘する。
熊本、鹿児島両県の認定審査会では、感覚障害、運動失調、平衡機能障害、視野狭窄などの症状の組み合わせがあるかどうかを診る。しかし、津田教授は「中毒症の診断は、原因食品を食べたかという暴露歴とそれによってもたらされる症状が一つでもあるかどうか、が基本」と話す。食中毒の実務に詳しい保健所職員から「水俣病をめぐる議論は、下痢のみの食中毒患者はいないとか、嘔吐のみの患者は食中毒患者ではない、と言っているのと同じで、おかしい」と指摘されたこともあるという。
大阪地裁判決を受けてくすぶる論争
環境省で水俣病を担当する環境保健部を所管する大森恵子・政策立案総括審議官から、大阪地裁判決についての受け止めを聞いた。控訴を決める前だったからか、大森審議官は判決批判というよりはソフトな語り口で、こう反論した。
「基本的に疫学的判断と、個別の人が水俣の(チッソによる排水と病気との)因果関係があるかとは別だよ、と判決でもおっしゃっているんですけど、全体としてはこのエリアで、感覚障害が高めに出ていて、それは汚染された魚を食べたせいなので、やはりそれはそこに住んでいる人はみなさん、水俣病であるという因果関係が認められるんじゃないか、というトーンで判決を書かれている」
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