AI半導体・NVIDIAが「ひとり勝ち」した納得背景 決算書から見えた「事業シフト」の全貌とは
さらに2022年に生成AIブームが起こると、「麻薬よりも入手困難」とイーロン・マスク氏が嘆くほどGPUの需要が急増。これに伴い同社の株価も急騰し、2023年6月には史上8社目となる時価総額1兆ドル超えを達成。アップル、マイクロソフトなどに次ぐ規模に成長しました。
同社の強みは、高い技術力と先見性、そしてファブレス経営(自社で工場を所有せず、製造を外部に委託する経営方式)による分業モデルにあります。1998年には、後に世界最大の半導体受託製造企業となるTSMC(台湾積体電路製造)社と提携。
当時、インテルが設計と製造の両面で半導体産業の覇権を握っていた一方で、エヌビディアは経営資源を設計に集中させることで、より速く、より高性能のAI向け半導体を開発・量産することに成功したのです。
売り上げは横ばいも利益は約半分に。業績低調にみえる理由とは?
それでは当期(2023年1月期)の損益計算書をみてみましょう(以下、1ドル≒140円として計算。本文では便宜上、円で記載)。
まず売り上げは約3.8兆円で、前期からほぼ横ばい(1)。対して、営業利益は前期比57.9%減の5914億円(2)で、営業利益率は21.6ポイントも低下(3)。最終利益も55.2%減の6115億円(4)と、時価総額とは裏腹に収益性がかなり低下しています。
この原因はいくつか考えられます。ひとつは、商品構成比の変化です。事業セグメント別の業績をみてみましょう。
コンピュータ&ネットワーキング事業が増収増益(5)なのに対し、グラフィックス事業は減収減益(6)となり、当期で売り上げと利益の規模が逆転。さらにグラフィックスの利益率が大きく低下しています(7)。つまり高収益のグラフィックスの売り上げ割合と利益率が下がったことで、全体の収益性も低下したのです。
また、同社のアニュアルレポートから市場別売り上げ高を調べると、AI向け半導体が主力のデータセンターの売り上げは前期から41%増えているのに対し、グラフィックスチップが主力のゲーミングは27%減少しています。AI産業からの半導体需要が急増している一方で、ゲーム市場は前期に起きたコロナ特需の反動で買い控えが起きたと推測できます。
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