トヨタは「強敵」に浮上したBYDと対抗できるのか コスト、供給網、SDV…中国で勝つ3つの条件

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これにより、フォルクスワーゲンは一般的に2~3年かかる新車開発期間を、中国BEVメーカーが求める9カ月まで短縮を目指すという。では、トヨタはどうだろうか。

トヨタは2023年8月、「トヨタ知能電動車研究開発センター(中国)」を発足させ、インテリジェント・スマートカー開発を強化する一方、中国合弁企業3社やグループサプライヤーと連携し、現地サプライヤーの開拓や部品設計の見直しを通じて生産コストの大幅削減にも取り組むとした。

江蘇省にあるトヨタ知能電動車研究開発センター(写真:トヨタ自動車)
江蘇省にあるトヨタ知能電動車研究開発センター(写真:トヨタ自動車)

中国新興BEVメーカー幹部の話では、こうした開発の現地化により、トヨタの新車開発期間は従来の4年から2年に短縮できるという。今後、コネクテッド技術を備えるレクサスが、SDV化でドイツ車との差別化を実現できれば、中国高級車市場でシェアの拡大を実現できるだろう。

BEV攻略への“本気”は実を結ぶか

中国政府が2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量をピークアウトさせ、2060年までに排出量を実質的にゼロにする目標を掲げている中、中国では「2035年までのガソリン車全廃」の機運が高まっている。

「クルマの端末化」が急速に進化している中、エンジン車を中心とする外資系メーカーがコスパの高いBEVモデルを投入しなければ、中国勢に太刀打ちできない状況だ。

上海国際モーターショーで発表した2台は、2026年までに発売予定のBEV10モデルの内の2モデルとして2024年に導入するという(写真:トヨタ自動車)
上海国際モーターショーで発表した2台は、2026年までに発売予定のBEV10モデルの内の2モデルとして2024年に導入するという(写真:トヨタ自動車)

足元の新車市場では、中国勢の価格破壊がトヨタ車の競争力を一気に脅かした。トヨタが残存者利益を獲得するためには、車両のコストダウンだけではなく、競合企業を上回るブランド力の維持を意識しながら、サプライチェーン全体の見直しを急ぐ必要がある。

市場競争が想像以上のスピードで変化している今、BEV攻略への本気度が現われるトヨタの戦略転換には、実施スピードや成果の創出が求められるだろう。

トヨタの世界販売の約2割を占める中国で、既存の顧客層であるエンジン車ユーザーの電動化需要に対応することができれば、それはトヨタが世界で勝ち抜く1つの条件になるはずだ。

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湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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