孫正義はいかにしてジョブズを口説いたか

交渉前に勝負を決める交渉術

孫正義は、交渉の達人と言われる。古くは、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツを口説いて、マイクロソフト社のパートナーとしてソフトバンクを大きく発展させてきた。また、ポータルサイトのYahoo!の創業者であるジェリー・ヤンを説得して米国本体に出資すると同時に、ジョイントベンチャーとしてYahoo! Japanを立ち上げるなどして、ソフトバンクの成長をその交渉力で牽引してきたのだ。

交渉の秘訣は“鯉とりまーしゃん”に学べ

その交渉力には秘訣がある。私がソフトバンクに在職していたとき、孫正義から「交渉を成功させる秘訣を知っているか?」と聞かれたことがある。「はあ、なんでしょう」と私は間の抜けた返事しかできなかったのだが、孫正義は、「鯉とりまーしゃんなんだよ」となぞなぞのようなことを言い出したのだった。

“鯉とりまーしゃん”とは、孫正義の生家にもほど近い福岡県浮羽郡の、川魚漁師のことだ。筑後川で鯉を素手で一度に何匹も捕まえる独特の漁法で知られた有名人だった。孫正義によれば、「“鯉とりまーしゃん”が冬の冷たい筑後川の水底に横たわると、体のそばに鯉がぬくもりを求めてよってくる。これを優しく抱きかかえて鯉を捕まえるんだ。これが交渉の秘訣なんだよ。自然と交渉相手が寄り添ってくるような状態を作り出すのが重要なんだよ」ということだった。この“鯉とりまーしゃん”式の交渉術こそ、孫正義がジョブズを口説くことができた秘密なのだ。

孫正義はいかにスティーブ・ジョブズを口説いたか?

孫正義がジョブズと最初に接触したのは、ジョブズが2007年1月9日に初代iPhoneを発表する約2年前のことだったらしい。孫正義はそのことを米国のテレビ番組でも語っている。2005年当時、ソフトバンクは携帯電話の新規事業免許を取得する準備を進めていた(2005年11月取得)。当時の日本の携帯電話市場は「着うた」の爆発的な人気を受けて、音楽携帯が席巻していた。

特にauは、2006年には音楽配信サービスLISMOを開始し、端末としてはソニー・エリクソン社製の「ウォークマンケータイw42s」を投入し勢いに乗っていた。新規参入するソフトバンクも音楽携帯で効果的な対抗機種を必要としていた。この対抗機種として孫正義は、アップル社のiPodを拡張した音楽携帯を想定したのだった。孫正義は自分の考える音楽携帯をジョブズに見せに行ったらしい。そこでジョブズ自身からiPhoneの計画を打ち明けられたのだ。このときから孫正義のiPhoneの販売権獲得の活動が始まった。

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