心身両面で子どもを放射能から守る努力を--ナターシャ・グジー 歌手/バンドゥーラ奏者 

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同じクラスで違った被災者への待遇

──被災者を迎え入れたキエフではどんな生活でしたか。

住宅は既存の住宅群の一角に新たに建設されたので、近所の人たちは誰が被災者かを知っていました。私たちをどこか違う目で見る住民もいましたし、その後、男女のお付き合いや結婚となった場合、被災者ではない相手の親が心配、あるいは問題にすることもよくありました。

小学校では、「プリピャチっ子」といじめっ子たちから言われたこともよくありました。クラスの半数ほどが被災した子どもたちでしたが、待遇が違っていたことも、そう言われた原因の一つかもしれません。

たとえば、給食。被災した子どもには「栄養をつけるため」と果物などが別途支給されました。一方で、同じクラスには給食費も払えない子もいました。彼らからすれば、「逆差別」に思えたのかもしれません。私たちが支給されたリンゴやパンをそんな子にあげようとしても、「そんなもの、いらない」と食べ物を地面にたたきつけ、けんかになることもよくありました。

──子どもたちの健康面での様子はどうでしたか。

「疲れやすい」ということで体育の授業に加われない、被災した子どもが少なくありませんでした。仲のよかった同級生も事故から3年後に突然、亡くなりました。「のどのがんで亡くなりました」と先生から言われて初めて、甲状腺がんだったのだと知りました。甲状腺がんや白血病といった病気から、頭痛や体の痛みが絶え間なく続く子どもたちが増えました。

子どもだけではなく、時間が経つにつれ、大人たちの体がむしばまれていく様子も目の当たりにしました。また、そんな大人が産んだ子どもたちも、生まれたときからすでに体が弱かったり、通院を繰り返すことが多かったですね。大人も子どもも体が弱い。となると、薬代だけでも家計にそうとうな負担となります。それでも「自分たちは生きている。子どもも授かった」と、生きがいを見いだしている被災者が多かったことを覚えています。

子どもの心を癒やせる機会や場を提供したい

──福島第一原発の事故で、原発周辺の子どもたちが放射性物質にさらされています。

私をはじめチェルノブイリ事故の被災者たちは、「こんなことは私たちで最後にしてほしい」とずっと願ってきました。だからこそ、今回の福島の事故について、とても心配し、心を痛めています。

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