日本は生成AI本格導入すれば「失業率25%」になる 影響がアメリカより高くなる可能性がある理由

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こうして、失業した労働者は、新しい仕事を見つけることができるだろう。だから失業率は高まらず、経済の生産性が高まることになる。

これらの仮定の基で、生成AIの広範な導入は、全体の労働生産性の成長を向上させる可能性がある。これは、電動モーターやパーソナルコンピューターのような先行する変革的技術の出現で生じたのと同じ規模のものだ。

最も必要な経済政策は、労働力の流動性確保

確かに、このようなことになってほしいものだ。しかし、必ずそうなるとは限らない。そのためには条件がある。

最も重要なのは、経営者が労働者を解雇せず、新しい創造的な仕事を与えることだ。また失業する労働者が新しい仕事を見つけられることだ。これを実現するには、労働市場が柔軟に機能している必要がある。しかし、 日本でそれができるだろうか?

日本では、もともと労働の企業間移動が不十分だ。さらに、政策がそれを後押しした。コロナ禍における雇用調整助成金はその典型例だ。さらに退職一時金制度が企業間の流動性を難しくしている。

このような問題を抱える日本が、生成AIによって引き起こされる膨大な労働力移動に対応できるだろうか? もしできなければ、失業率が25%という事態になりかねない。

「それを避けるために生成AIを取り入れられない」といった事態になるのではないだろうか? 生成AIに対して、日本で最も必要とされるのは、労働力の企業間流動化の促進だ。

このレポートは、AIによる自動化の影響度を国別に推計しており、日本は世界で3番目に高い影響を受ける国だとしている。日本についてのAIによる自動化率の数字は、経済全体の平均で見て、アメリカの25%より高い。

その意味で、このレポートは日本に対する警告だと捉えることができる。日本政府は、こうした事態をはっきり見据える必要がある。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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