ところが共和党内には、「オバマに花を持たせるのは絶対に嫌だ!」という頑固な右派議員が大勢いる。TPA法案を通すために、民主党議員の言い分に少しでもすり寄ると、身内の離反を招きかねない。党執行部としては、まことにさじ加減が難しいのだ。
もしTPP不成立なら、中国の「不戦勝」に!?
こんな調子であるから、ひょっとするとTPA法案はこのまま成立せず、TPP交渉自体が失速するという未来図もちらつき始めた。
その場合、交渉に参加している他の11か国は、うわべ上は「継続審議」という言い方をするだろうが、「オバマ政権の間はもうダメだよね」という見方が支配的になるだろう。仮にTPP交渉を再開するにしても、それは2017年1月以降ということになってしまう。
その場合、「交渉失敗は誰のせいだ?」などと犯人探しが始まるだろう。間違っても、「農業部門の開放を惜しんだ日本のせいだ!」などと言われたくはない。衆目の一致するところ、「アメリカ政治の機能不全が墓穴を掘った」ということになるはずである。
ここでの難問は、アメリカ外交が例のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の件で中国に出し抜かれている点だ。
オバマ大統領は今年の一般教書演説の中で、「中国が世界でもっとも成長する地域(アジア)のルールを作ろうとしている。それではアメリカの労働者と企業が不利になってしまう。そんなことをさせてはいけない。われわれがルールを作るべきなのだ」と訴えて、議会に対して「だからTPAを与えてくれ」と呼び掛けている。これでTPPができなかったら、アメリカは中国にしてやられた、ということになってしまう。
くれぐれも誤解なきように願いたいが、AIIBとTPPは本質的に別物だ。前者は国際開発金融機関であり、後者は自由貿易協定である。互いに敵対したり矛盾したりするものではない。ビジネスの現場に居る者としては、両方やってもらえればありがたい。
筆者は、日本がAIIBに参加する必要はないと考えるものだが、それでもADB(アジア開発銀行)と協力して、アジアのインフラ投資が増えるのは結構なことだと思う。そしてTPPには、いずれ中国が参加する日が来るものと考える。国際開発金融も自由貿易も、どちらも世のため人のため、そして世界経済のためである。国のメンツを賭けて競い合うようなものではないはずである。
ところが外交の世界では、すでにこんな認識が出来てしまっている。「中国はAIIBに57カ国もの参加を取り付けて、着々と新しい国際秩序を作りつつある。他方、アメリカはTPPの合意を取り付けることができるのか。もしも失敗するようなら、アジアにおける信頼は失墜するし、世界のリーダーとしての地位も危うくなる……」。
真面目な話、TPPが不成立となれば、中国は「えっ、ワシの不戦勝でっか?」とばかりに笑いが止まらないだろう。できれば、そんなことがないように祈りたい。
願わくば、米民主党は自由貿易アレルギーが軽くなり、米共和党は票読みができるようになり、オバマ大統領はお願い事が上手になりますように。そんなことでTPPがこけたら、シャレになりませんがな!(と、ここまで書いたところで、上院でTPA法案審議の動議再提出への動きが始まったとの報あり。その調子で頼むよ~)
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