そこで注目のTPA法案の行方である。当初は順調に4月22日に上院の財政委員会、同23日に下院の歳出委員会を通過した。後は本会議を通るかどうかで、上下両院はこの間に予算とイラン関連法案の審議を優先した。そして5月12日、いよいよ上院本会議でTPA法案を審議する動議が提出されたのである。
ところが、上院100議席中、賛成は52票で反対は45票。上院で必要な60票の賛成には届かなかった。オバマ大統領としてはガッカリもいいところ。もともと議会対策は下院が主戦場と見なされていたので、こんな緒戦で躓いているようでは先が思いやられる。
お願い下手なオバマ大統領と票読みできない共和党
不思議に思われるかもしれないが、オバマ大統領がレガシーにしたいと切望するTPPに対し、民主党が反対して共和党が賛成している。「ねじれ」もいいところだが、それくらい民主党内は自由貿易アレルギーが強い。
なにしろあのヒラリー・クリントン候補が、大統領選挙を意識してこの問題について沈黙しているほどだ。対アジア重視政策を構築し、TPP交渉の推進役であった前国務長官殿が、そんなことでは困るんですけどねえ。
さらに事態をややこしくしているのは、「お願いが下手な大統領と票読みができない共和党」という困ったコンビである。
オバマ大統領は演説の時はカッコいいが、「ここは俺の顔に免じて頼むよ~」みたいな腹芸ができない政治家だ。普段は威張っていて、困った時だけ頼みごとに来るような人は、どこの世界でも嫌われますわなあ。しかも、お願いの仕方があんまり上手じゃない。
いくら気持ちがはやっているからと言って、カーター国防長官に「TPPは空母と同じくらい重要だ」と発言させたのはいただけなかった(4月8日、アリゾナ州立大学)。貿易依存度が高いオレゴン州、メリーランド州、フロリダ州を遊説してTPPへの支持を訴えたのはいいが、なにもナイキ本社(5月8日、オレゴン州)でやることはなかった。ベトナムでシューズを生産しているナイキを持ち上げたのは、まるで反自由貿易派に喧嘩を売っているようなものである。
さらに、民主党議員がTPA法案に反対するのが面白くないからと言って、リベラル派のスター的存在であるエリザベス・ウォーレン上院議員に対し、「根拠のない暴論」とけなしたのは拙かった。同僚の議員たちはいたく心証を害し、当日は44人の民主党上院議員のうち1人を除く全員が反対に回った。これじゃ、大統領との関係修復は大変だぞ。
共和党内も事情は複雑だ。今年から上下両院で多数を握ったからには、去年までの「何でも反対」路線は続けていられない。2016年選挙までに、何かひとつくらい政権と協力して、国益に貢献したという業績を残したい。それには自由貿易とプロ・ビジネスという党是からいって、TPP推進は絶好の政策課題である。
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