米国で起きている金利上昇をどう読めばいいのか インフレ懸念で金利再上昇なら景気急悪化も

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もし景気に対する楽観的な見通しが強まってくれば、イールドカーブを正常な状態に戻そうとする動きが出てくるのは避けられない。FRBがまだかなりの期間、政策金利を今の水準で維持するという方針を示している以上、政策金利の影響を受ける短期金利は下がりにくい。イールドカーブを正常化させるには長期金利が上昇するしかなく、この場合、上昇余地もまだかなり残っていると見ておいたほうがよい。

インフレ懸念伴った「悪い金利上昇」再復活の懸念も

もちろん、足元の金利上昇が、こうした「良い金利上昇」であれば、あまり心配することはない。警戒すべきなのは、この先インフレ圧力が再び強まり、現在の「良い金利上昇」がインフレ懸念を背景とした「悪い金利上昇」に取って代わられ、しかもかなりの期間継続するというシナリオだ。

前回のコラム「アメリカの『利上げ継続懸念』はまだ消えていない」でも指摘したように、足元の景気の堅調さやエネルギー価格上昇などを受け、今後再びインフレ圧力が強まる可能性は十分ある。たとえ次回9月19~20日のFOMCで利上げが見送りとなっても、状況次第ではその次の10月31日~11月1日のFOMCで、再度利上げに踏み切る可能性も十分に考えられる。

その際には利上げが行きすぎたものとなり、さらなる金利上昇が景気をあらためて悪化させるおそれが高いとみておくほうがよい。確かにインフレ鎮静化と景気回復への期待は依然高いが、今後のカギは足元の金利上昇がどこまで続くのかにかかっているのかもしれない。

いよいよ24日からアメリカのワイオミング州ジャクソンホールで、カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウムが始まった。このジャクソンホール会議でパウエル議長が講演を行うのは、25日の午前10時(日本時間23時)過ぎからだ。

昨年のこの講演では、もともと30分の予定だった講演時間を短縮、わずか10分足らずのスピーチの中で「インフレ抑制に向けて利上げを続けるという強い意志を示した」ことが市場に大きなショックを与え、金利は上昇。S&P500種指数は1日で3.4%も下落するなど、株価の調整につながった。

今回もインフレ抑制に対する強い姿勢をあらためて示すのか、それともインフレが鎮静化していることを強調、市場に買いのきっかけを与えるのか。その内容が大きく注目されている。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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