米国で起きている金利上昇をどう読めばいいのか インフレ懸念で金利再上昇なら景気急悪化も

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一方、今回の金利上昇は、従来とはやや異なる状況の中で生じている。消費者物価指数(CPI)は5月以降、伸びのペースが急速に鈍化。今後の状況次第では、7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で決定された0.25%の利上げが、今回の金融引き締め局面で最後の利上げになるとの見方も根強い。

8月10日に発表された7月のCPIも、総合指数が前年同月比3.2%の上昇と、予想をやや下回る伸びにとどまった。また、変動の大きな食品とエネルギーを除いたコア指数は同4.7%の上昇と、事前予想どおりながらも前月からは伸びが鈍化した。

CPI発表後には「インフレ鎮静化の傾向には変わりはない」との見方から、長期金利も一段と低下したし、次回のFOMC(9月19~20日)における追加利上げ観測も後退したように思われる。

このように、最近の数カ月はインフレ圧力も着実に後退している。にもかかわらず、金利は大きく上昇している。つまり今回の金利上昇局面は、インフレの進行やFRBの追加利上げを懸念してのものでは決してないということだ。

「よい金利上昇」なら、長期金利の一段上昇も

では、現在の金利上昇をどう見ればいいのか。それはズバリ、アメリカの景気の先行きに対する楽観的な見方が急速に高まっていることによるものと思われる。とくに5月分、6月分の経済指標に強気のサプライズが相次いだあたりから、市場では「景気がこのまま順調に回復する」との見方が一気に強まってきた。

大手金融機関でも、「同国経済が景気後退(リセッション)に陥る」との見方を撤回するアナリストが多く出ているし、FRBのジェローム・パウエル議長は7月25~26日のFOMC後の会見で、「FRBの調査スタッフはもはやリセッションを予想していない」とまで言い切った。4~6月期のGDP(国内総生産)が予想を大幅に上回る伸びとなったことや、最近のインフレの落ち着きぶりを見る限りでは、そうした見通しが増えるのは当然かもしれない。

もし景気がこの先もしっかりとした回復基調を維持するなら、金利には一段と上昇圧力が強まってしかるべきだ。その点、今回の金利上昇は、景気の回復に伴った「良い金利上昇」と捉えることもできる。

とくに短期債の金利が長期債の金利を上回るという、イールドカーブの逆転現象が続いている今の状況は、景気後退のサインと言われているように、景気悪化を前提とした動きということができる。

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