新幹線「異常事態」を未然に防ぐ12人のプロ集団 台車トラブルを教訓にJR西日本が2018年に設置

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続いて2人は8号車から1号車に向かって車内を巡回。この最中も「歩きながら足元から伝わる振動や気になる音、臭いなどを感じ取り、異常の予兆を探します。客室内の壁のネジなども走行中の揺れでゆるみが発生していないかなど、目で見て触って確認します」(田島氏)。デッキ部の壁や手すり、洗面台の水がきちんと出るかなどを実際に動作させて確認するが、「停車中に水が出ていたとしても、走行中になにかの支障で水が出ない可能性があるためです」(同)。

広島に戻る復路は最新鋭のN700S(16両編成)に添乗。「通称“ながもの”と呼ぶ16両の編成は、運用が東海道新幹線まで及ぶため、定期検査を実施したくても山陽新幹線区間に長期間戻ってこない運用も存在し、検査計画に苦心することもあります」(藤井氏)。また、乗務員と異なる服装で車内を巡回するため、乗客の目を引く。そのため、両氏とも「検査中もお客さまの動線を支障しないように細心の注意を払う」という。

運行を続けるか、中止するか

走行管理班の業務は計測機器による測定だけでなく、数値化できない検査員自身の「感覚」も重要だ。そのため、班内では実際に故障に発展しうる振動や音を、車両形式、速度帯別に収録し実際に体験できる「振動体感装置」を開発し、週1回程度実施される検査員の日常訓練のほか、乗務員向けの検査にも活用。中には異常音のように聞こえる音でも正常なものもあり、これも体験することができる。

そんな走行管理班に緊張が走るのが、乗務員からの通告による臨時の運転検査だ。運行中の乗務員から、東京にある新幹線総合指令所に申告が行き、該当編成の走行位置により、指令員から岡山、広島どちらかの走行管理班に添乗指示が出る。「今、広島駅に入線してきた編成にすぐ添乗せよという指示が来ることもある」とのことで、派出所内にはすぐに持ち出せる携行用の用具が準備されている。即応対応の添乗は自社所有の編成以外でも実施され、必要があれば列車を停車させ、線路上で機器の点検を実施。そして、最も検査員として重大な判断が迫られるのが、その列車の運行を「続けるか、中止するか」だ。

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