半導体のロームが3000億円と弾く「東芝の価値」 パワー半導体の「販売・人材・技術」で連携か
「東芝の半導体事業については当社との親和性も高く、将来的に機会をいただければ協業・連携にも関心」。現段階で具体的な内容は決まっていないとしつつも、ロームは出資を表明した際のリリース文にそう記した。
それらのことから「協業・連携を深めるならばパワー半導体分野」というのは、業界では衆目の一致するところだ。仮に両社が手を組んだ際、メリットとしてまず生かせるのは顧客層の違いだろう。
ロームのパワー半導体の売上高は約1100億円。自動車向けを中心に手がけている。
東芝もパワー半導体のみの売上高は1000億円規模。うち約3割が自動車向けだが、鉄道部門を介し鉄道向けにも強みを持っているのが特徴だ。協業が叶えば、ロームにとっては顧客層が広がる可能性は大きい。
加えて見逃せないのが、現在のロームならではの事情だ。それは冒頭の業界関係者コメントにある「人材」をめぐる懸念だ。
生産ライン構築の人材を補える?
7月26日に日本経済新聞に掲載された松本功ローム社長のインタビュー記事。「開発はこれまで培ってきた人材がいるが、生産ライン構築のための人材が課題だ」。この松本社長のコメントが業界関係者の目を引いた。
「ロームは元々、開発に比べて製造部門に人員を手厚く配置することで業界でも有名。開発ではなく『生産の人材が課題』というのは、よほど人材が逼迫しているのではないか」(業界関係者)
「生産の人材」についての懸念は、足元で行っているパワー半導体増産のための怒涛の投資攻勢を見ればうなずける。
2022年12月に福岡県筑後市の新工場棟での量産を始めたのに続き、2023年7月には宮崎県で太陽電池を生産していたソーラーフロンティアと旧国富工場の取得で合意。この工場の床面積は筑後工場の10倍という規模だ。
それぞれの投資額は公表されていない。ただ、筑後工場が本格稼働する2023年度の減価償却費は840億円と前年度比で280億円も増加する。750億円の営業利益を見込むロームにはかなりの利益圧迫要因だ。投資額の大きさがうかがえる。
別の関係者によれば、政府支援策の活用も申請しているようだ。
経済産業省はパワー半導体の能力増強投資に助成金を交付するとしている。その対象は、1案件で2000億円以上の投資規模で、国際競争力を将来的に維持するために必要と考えられるものだ。投資攻勢はまだまだ続きそうだ。
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