やっぱり今は金融危機への「黄信号」が灯っている ハーバード大学の「バブル研究第一人者」が警告

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グリーンウッド教授らは、株価バブルの研究からさらに視野を広げ、金融危機が予測できるかどうかについての研究も行った。それが、2021年の「予測できる金融危機」(“Predictable Financial Crises”)という論文である。

これはいわゆる「FED VIEW(フェッドビュー)」、つまり「バブルは事前に判断できない。よって、金融当局はバブルかどうかは判断せずに様子を見て、崩壊したらそのとき金融市場を支えればよい」というアメリカの中央銀行の考え方に異を唱えている。

平たく言えば、「金融当局は警察官ではなく消防士であるべきだ」という考え方に真っ向から対峙する。「金融危機は予測できる。だから、事前に防止する努力をするべきだ。しかし、実際の政策運営では抑制に動くタイミングは難しい。それでも、その適切なタイミングに関する提言を示唆する分析を行う」というわけだ。なんとすばらしい、チャレンジングで使命感にあふれる研究だろうか。

「レッドゾーン」突入なら当局は「バブル抑制」を

彼らは金融危機が起きる可能性が高いことが予測できる状態を「レッドゾーン」と名づけ、第2次大戦後の世界中の金融危機の歴史的なデータの分析から、以下のような場合には、当局はバブル抑制に動くべきだと主張している。

すなわち、直近3年間で、①非金融セクターへの事業融資が急速に膨らんでいて、かつ同時に株価が大幅に上昇している場合、あるいは②家計部門への融資が急速に膨らみ、かつ不動産価格が大幅上昇している場合、そのどちらかである場合には、その後の3年間に40%以上の確率で金融危機に陥る、ということを統計的分析で示したのである。

ここで重要なポイントは、株価上昇や不動産価格の上昇だけではバブルを抑制すべきだとは言えないが(実体経済の技術革新などにより、実質的な経済成長が起きた結果の場合があるから)、それが融資の大幅な増大を伴うときには金融的なバブルである可能性が高く、抑制に動くべきだ、ということである。

われわれからすれば、当たり前のことに聞こえる。だが、大きなチャレンジの研究なのである。なぜなら、政策マーケットでは、前述の「FED VIEW」が主流であるからだ(少なくともリーマンショック前は絶対的優勢であった)。

これは金融市場関係者の意向でもある(できる限りバブル、あるいは株価・不動産価格上昇は続いてほしい、続けるように政策を打ってほしいという願望)し、「マーケットの世論」ではこうした考え方が圧倒的優勢である。

さらに、学問の世界でも、前述のファーマ教授などファイナンス分野の学者だけでなく、正統派マクロ経済学者のほとんどに支持されてきたからである。だが、繰り返すが、グリーンウッド教授らは極めて現代的な統計的な分析結果をもって、前出の経済史家のキンドルバーガー氏や、ハイマン・ミンスキー教授(「金融市場と経済はブームと破裂を繰り返す」という理論で有名。リーマンショック後、リバイバルブームになった)らの見方が正しいことを世の中(そして、とりわけ経済学者たち)に突きつけたのである。

次ページでは、アメリカや日本には「赤信号」が灯っているのか?
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