台湾「空港鉄道」、路線延伸と乗客急増の新局面 4年かけ800m延長、「定額定期」で通勤客が増加
一方、桃園空港―台北間の利用者数は回復どころか急増しており、空港MRTを運営する桃園メトロの発表によると、1日の平均輸送人員はコロナ前に比べ20.34%伸びた。その背景としては、空港利用客の回復のほかに、政府が2023年7月から全国的に導入した鉄道・バスなどの公共交通機関が乗り放題となる定額定期券「TPASS」の存在がある。
会社が通勤費を補助するといった概念が普及していない台湾では、公共交通機関の利用にさまざまな割引が用意されている。その一環として、台北地区では以前から地元政府の主導で同様の定期券を1カ月1280元(約5700円)で販売していたが、政府主導で制度を全国に拡大した7月からは価格が1200元(約5400円)に値下げされ、同時に従来は対象外だった空港MRTや桃園市の交通機関も利用可能となった。その結果、運転手不足によるサービス品質の低下が深刻なバス利用者がMRTにシフトしたと考えられる。地元政府も、ラッシュ時間帯に駅へ向かうシャトルバスを整備するなどMRTの利用を後押ししている。
需要が急増する中、大きな課題となっているのが乗務員と車両の不足だ。列車本数は8月から普通車・直達車ともに15分間隔のコロナ前の状況に戻ったものの、朝ラッシュの増発は2本と少ない。これ以上の増発が厳しい状況で、当局は69人の採用を計画している。車両については、コロナ前から普通列車用の車両を直達車に転用するなど余裕のない運用が続いており、増発や今後の延伸に向けて早期の増備が期待されるが、目立った動きがないのが現状である。
空港アクセス以外の需要伸ばせるか
このように、需要が急増する台北エリアと、延伸開業したものの駅周辺の活性化に課題が残る桃園エリアで異なる事情を抱える空港MRTだが、その差は旅客数を見ても明らかだ。直近の統計では、台北駅の1日平均旅客数が3万4000人なのに対し、環北駅は5000人ほどにとどまり、途中駅も中壢寄りでは2000人に満たない駅がほとんどだ。
しかし、桃園側もポテンシャルが低いわけではなく、桃園空港では第3ターミナルの建設に並行して「桃園航空城」と称する、空港を起点とした研究施設や物流拠点を設ける都市開発が進む。また、沿線には世界2位の病床数を誇る病院、長庚醫院やアウトレットなどの商業施設も立地する。一方、台北駅も、駅舎上部で高層ビル「台北ツインタワー」が着工した。
また、前述の定額乗り放題の定期券「TPASS」も券種拡大が計画されており、台湾版MaaSとも言われるこの制度が空港MRTの末端区間の輸送をどう変えるか期待がかかる。とくに桃園の沿線から台北への通勤は高速鉄道を使う市民が多かった中、「TPASS」の利用により、所要時間では劣るものの、高速鉄道の定期券と比べ通勤費用を3分の1以下に抑えられる空港MRTへのシフトが進むことが期待されている。
観光面でも近年では桃園市政府が主導となり沿線に「横山書法芸術館」や、神奈川の八景島シーパラダイスを手がける横浜八景島による台湾初の都市型水族館「Xpark」が開業するなど開発が進むほか、沿線の野球場にホームグラウンドを置く台湾プロ野球チーム「楽天モンキーズ」と提携し、観戦券がセットになったワンデーパスを発売するなど、公民連携のユニークな施策も見られる。こういった沿線開発が進む中、旅行者にとっても単なる空港アクセス路線としてだけでなく、沿線が旅の目的地となる日はそう遠くないかもしれない。
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