台湾「空港鉄道」、路線延伸と乗客急増の新局面 4年かけ800m延長、「定額定期」で通勤客が増加
また、信号システムは同じシーメンス社製でも、最初の開業区間は同社が買収したイギリス・インベンシス社による従来の固定閉塞の安全性を強化したCBTC-EPだったのに対し、延長区間は移動式閉塞のCBTC方式を採用したため、整合に時間を要することとなった。信号の切り替え準備や試験は毎日、終電から始発までの約3時間しか行えず、2022年末の開業予定が結果的には2023年7月にずれ込むこととなった。
信号システムの違いは実際の運行にも影響が見られる。開業当日に筆者が試乗したところ、システムの切り替え地点となる環北駅では扉が閉まった後、切り替えに約30秒を要してから発車。環北駅から老街渓駅までの乗車時間が2分程度に過ぎない中で、時間のロスを感じざるをえなかった。
さらに、快速運転を行う「直達車」の車両は延伸区間用のシステムを搭載しておらず、延伸区間に直通するのは普通列車のみとなっている。これはダイヤの組み方や追い抜き設備も関係していると当局は説明するが、このような複雑な運行体系となったことは、人材確保や電気設備の設計を海外に頼らざるをえない台湾の弱点を露呈する形となった。
さらなる延伸に期待がかかるが…
そんな新区間であるが、老街渓駅からさらに1.2kmほど市街地中心部にある、台湾鉄道の中壢駅までの延伸工事も進んでいる。2028年開業を目指すこの区間が完成すると、台湾鉄道沿線からの空港アクセスが改善され、工業地帯やベッドタウンが広がる北部の都市からの利便性向上が期待される。また、同駅へ延伸する予定のMRTグリーンライン(緑線)との直通も計画しており、これが実現すれば桃園地区をぐるっと一周する環状線状のネットワークが完成することとなる。
しかし、中壢駅の工事は台湾鉄道の地下化事業と重なり、複雑な工程になることが予想されるほか、信号システムこそ同じであるものの、空港MRTと異なり無人運転かつドア位置も異なるグリーンラインとどのようにして直通運転するかなど、課題が多い。市民からは「百年建設」だと揶揄する声も聞かれる。
駅周辺の開発も課題だ。これまでの終点だった環北駅付近は宅地開発が進むが、新たに開業した老街渓駅周辺は昔からの商業地帯ではあるものの衰退しつつあり、駅の隣には高層の商業ビルが建つが、多くの百貨店や映画館が撤退している。台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹などの工業地帯に近いことから日本企業の駐在者向け飲食店も多い地域であるが、コロナ前ほど客足が戻らず商売にならないといった声も聞こえてくる。
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