「領域横断作戦時代」の防衛装備・技術協力のあり方 日米共同を前提とした「キルチェーン」構築を

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JADC2では、既存のシステムを組み込むため、オープン・アーキテクチャを基本とするアプローチをとっており、伝送するデータの規格統一やAIの活用、さらにネットワークとネットワークの結節点(ノード)の開発によって各軍種のシステムを連接することを目指している。

アメリカ軍は、今年から英豪とともにJADC2のコンセプトを実装したネットワークを使って実験を繰り返し進めており、他国のシステムとの高い相互運用性の確立も試みている。来年からは、さらに多くの国と協力する予定である。

自衛隊の試み

日本も大きく後れを取っているわけではない。すでに指揮統制システム関連の相互運用性を高めるための国際共同研究・開発に着手している。防衛装備庁によれば、2020年から、日米両国のネットワーク・インターフェースの設計・構築・試験を共同で進めている。

しかし、日米共同の領域横断作戦遂行に十分耐えうる相互運用性の高いネットワークの構築を目指すためには、JADC2のような領域横断作戦を念頭に置いた個別アセットのネットワーク化の全体像を明示する必要がある。

日米の軍種ごとの役割分担や共通システムを具体的な見取り図にして、日米の防衛装備・技術協力を日本の防衛力整備の中に統合された形で位置づける試みが求められるのである。

昨年12月に閣議決定された戦略三文書には、今後強化する7つの能力として「指揮統制・情報関連機能」が盛り込まれている。高いレベルの相互運用性を持つネットワークがこれまで以上に求められている今、こうしたプロジェクトが大きく進展することを期待したい。

(井上 麟太郎 リサーチ・アシスタント/地経学研究所)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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