アメリカのタフツ大学のアヤナ・トーマス博士らによる実験をご紹介しましょう。
実験では、「18~22歳の若者の群」と「60~74歳のシニアの群」に、それぞれ単語の記憶力テストを行いました。
そのテストとは、被験者らに単語リストを見せた後に別の単語リストを見せ「どの単語が元のリストにあったか」を当ててもらうものです。そこで驚くべき結果が出ました。
「これは、ただの心理実験である」と説明したときには、両群の正解率は約50%でほぼ同じでした。しかしテスト前に「これは記憶実験で、高齢者のほうが成績が悪い傾向がある」と知らせておくと、シニアの群だけ、正解率が約30%にまで低下したのです。
この結果から「高齢者は覚えが悪い」という事前の刷り込みで記憶力が下がったのだろうと推察できます。
要は思い込みや先入観が意欲を損ねた結果、記憶力まで低下させたというわけです。なんともったいないことでしょうか。
「40代から記憶力が衰える」わけじゃない
自分の例で恐縮ですが、私は「記憶力を含めた認知機能が低下する」とされる40代半ばから記憶競技をはじめ、記憶力日本一の座を6回も獲得しています。
具体的に言うと、44歳で記憶術と出会い、わずか10カ月のトレーニングで「記憶力日本選手権」で優勝したのです。
ライバルたちの顔ぶれは、東大生やMENSA会員(人口の上位2%のIQを持つ人たち)など、そうそうたる面々。もちろん20~30代を中心とした私より若い人たちです。
「44歳の人間が若い人たちに勝てた」という事実こそ、「年齢とともに記憶力は落ちる」という説を反証しているでしょう。
さらにいうと私は、記憶や学習に取り組む際は「年齢を重ねるほどメリットがある」とすら考えています。
その科学的根拠を挙げておきましょう。
そもそも学習に必要な「知能」とは、「流動性知能」と「結晶性知能」に二分されます。
若い時にピークが訪れる「流動性知能」、そして経験や学習によって、20代以降も上昇を続ける「結晶性知能」です。これらの概念は、アメリカ・ハワイ大学教授のレイモンド・キャッテル教授が提唱したものです。
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