高速列車時代の前夜「イタリア鉄道」1990年代の姿 雑多な客車列車や遅れが当たり前だったころ

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数多くの夜行列車を運行していたイタリアも、高速新線の延伸開業によってその多くを廃止した時期があったが、利用客からの苦情によって1年と経たずに復活したという経緯がある。鉄道会社側は、高速列車を利用して乗り換えたほうが早いから、と廃止の理由を弁明したが、利用客は運賃が安く、乗り換えなしで目的地まで行ける夜行列車のほうを好んでいたのだ。

その乗客の声を聞いて復活させたイタリア鉄道は偉いと思うが、復活に際しては座席車中心で予約なしでも飛び乗れるEspresso(エスプレッソ/急行列車)から、全車エアコン付きで寝台車・クシェット・座席車をバランスよく組み込んだ、全席指定のIntercity Notte(インテルシティ・ノッテ/特急列車)へ格上げされている。

幸いなことに、こうした夜行列車は2023年の今も多くの利用客がいるほど好評で、新型車の導入計画もある。この先もしばらくは安泰という状況が続くだろう。

鉄道会社CEO「今後数年でさらに変わる」

ローカル列車もバラエティに富んでいた。当時はまだギリギリ、昔懐かしいチョコレート色の旧型電車が健在だった頃で、地方ローカル線で吊り掛け駆動の音を響かせながら快走していた。だが、当時の最新型だったチョッパ制御の新型電車や客車が導入され、その後数年でこれらの旧型車は消えていった。

FS 旧型電車
1995年当時はまだローカル線に残っていた旧型電車(撮影:橋爪智之)
Ale801型電車
ファンタの愛称で親しまれたALe801型電車=1995年(撮影:橋爪智之)

都市近郊の主役は、機関車が牽引・推進運転する長編成の客車列車で、低床客車あり、2階建て客車あり、時には車種の異なるそれらがめちゃくちゃに混成され、色も形もバラバラというカオスな編成に出会ったりして、それを見るのが楽しかった。こうした客車列車は、2023年の今もまだ少しは見ることができるが、イタリアでは日立製2階建て電車ロック(日立製品名カラバッジョ)などの新型車が次々と投入されており、こうした雑多な客車が見られるのもあと数年のことと予想される。

E646型牽引 FS近郊列車 Piano Ribassato
旧型機E646型電気機関車が牽引する近郊列車=1995年(撮影:橋爪智之)

トレニタリアのCEO、ルイージ・コッラーディ氏は筆者の取材に対し、今後数年内にイタリアの鉄道はさらに大きく変わっていくことになるだろうと力強く語った。新型車両はエアコンを完備し、信頼性が高く、遅延も過去と比較すれば大幅に減ったイタリアの鉄道は、27年前と比較すれば信じられないほど進化を遂げたが、一方でちょっと薄汚れていて落書きも多く、よく遅れて「またか……」と頭を抱えて嘆いた、あの当時のことを少し懐かしいとも感じてしまう。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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