小選挙区制に批判的な論者は、小選挙区制に代わるよい選挙制度として、比例代表制や中選挙区制を挙げる。しかし、比例代表制や中選挙区制には、大きな欠点がある。それは、選挙によって「勝者」を決めきれないことである。
比例代表制や中選挙区制は、八方美人財政になりがち
政治は、税制をはじめとして財政にまつわる重要な意思決定をする。政治は、単に意見を聴くだけではいけないし、賛否の議論を交わすだけでもいけない。政治は、意見の違いを乗り越えてものごとをひとつに決めなければならない。つまり、公正な投票で「勝者」をひとつに決めなければならない。これを欠いては、政治の機能を果たしたことにならない。
この観点からいえば、比例代表制や中選挙区制の最大の欠点は、投票で「勝者」を決めない選挙制度であることだ。比例代表制も中選挙区制も、各選挙区で、最も多く「支持」を集めた候補者(ないしは政党)という「勝者」だけが当選者となるという仕組みではない。
だから、少数派の意見を汲み取ることができて中小政党がそれなりの議席を持つようになる半面、最も多く「支持」を集めた「勝者」は不明瞭になり、政策の意思決定をあいまいにしてしまう(ここでいう「支持」の含意は後述する)。
なぜならば、与党を形成するには、異なる意見を持つ勢力(政党や派閥)をより多く結集させなければならないが、そのために唯一の明確な方針ではなく、多様な意見を妥協した方針にせざるを得ないからである。財政運営において、あいまいな意思決定が引き起こす重大な弊害は、八方美人式に財政支出をばらまいたり、コミットメントが不可欠な財政健全化を遅らせることである。
その点、小選挙区制は「勝者」を必ず決める仕組みとなっている。繰り返すが、政治は、ただ意見を聞くだけとか、議論を深めるだけではダメで、ひとつの決定を下さなければならない。小選挙区制は、その意味でひとつの決定を下す選挙制度である。
小選挙区制を批判する論者は、しばしば想定している前提として、一回の選挙があたかも最終決戦(一度決まればそれを覆せない)であるかのように捉えている。
しかし、小選挙区制による選挙は、数年に1度繰り返し行われる。小選挙区制の下では、自分が望む政党や候補者が、勝つときもあれば負けるときもあって、でも長期間かけてみれば、それなりに自分が望む政策は実行してくれた、と多くの国民が思えることで、「勝者」を決める小選挙区制の利点が生きる。もし負けたときは臥薪嘗胆でも、勝ったときには自らが支持する政策を思う存分実行してもらって、その成果を享受する、というメリハリの利いた政策環境が実現する。
日本でかつてあった中選挙区制時代の発想、つまり自分が望む政党や候補者は一応当選するが、全ての主張が通るわけではなく、多少不満も持ちつつ妥協してほどほどの政策が緩慢に実行されるというのが通常、という発想では、政策の成果をうまく享受できない。
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