そうはいっても、小選挙区制の最大の欠点は、よく知られているように、選挙で少数派の意見がうまく汲み取れないことである。「勝者」をきちんと決めつつ、少数意見も適切に汲み取れる方法はないか。
実は、政治学だけでなく、政治の経済学といえる公共選択論の研究によって、「勝者」の決め方をもっと工夫する余地があることが明らかになっている。
そもそも、現行の小選挙制度は、単純多数決投票で行われている。投票者は、自らが最も好む(1位)候補者ひとりにしか投票できない。だから、最も好む候補者(ないし政党)と2番目に好む候補者とはあまり大差なく好んでいる有権者がいれば、1票しかないからその気持ちを現行の投票制度はうまく汲み取れない。
また、上位3つの候補者(政党)までは当選しても許容できるが、他の候補者(政党)は許容できない、という認識をおぼろげながら抱く有権者も、現行の投票制度ではその気持ちをうまく表せない。
「是認投票」という新たな選択肢がある
ならば、1度の投票で有権者の好み(選好)に関する情報をもっと集約する努力を払ってもよいだろう。有権者の選好について、今の制度のように最も好む候補者しか聞かないのは支障がある。
これは、イギリス国民も気がついていて、2011年5月に、最も好む候補者だけでなく、候補者を好む順位を付けて投票する「優先順位付き連記投票制」への変更の是非を問う国民投票を行った。しかし、約7割が反対して現行制度が存続することとなった。やはり、候補者を明確に順位付けするのは難しいだろう。
そこで順位付けがあいまいな有権者でも適応できるようにする投票制度に、「是認投票」である。是認投票とは、各有権者が当選しても構わないと思う(是認する)候補者を何人でも投票できることとし、開票段階で最多得票の候補者を当選とする制度である。
現実にある制度との対比でみれば、わが国の最高裁判所裁判官国民審査で「×」をつけるものの逆で、是認する候補者のみに「○」をつける投票制度、といえる。国民審査で何人でも「×」をつけてよいのと同様、是認投票では何人でも「○」をつけてよい。
こうすれば、最も好む候補者と2番目に好む候補者があまり大差なく好んでいる有権者も、上位3つの候補者までは当選しても許容できるが他の候補者は許容できないという認識を抱く有権者も、是認投票でうまく選好を表明できる。
ITが発達した現代なら、今や電子投票の実用化も視野に入ってきた時代で、開票の手間はずいぶん省けるようになろう。「民意」をよりよく汲み取る選挙制度にするには、こうした工夫が必要だ。
是認投票による小選挙区制ならば、今の投票制度よりもっと民意を反映できる。最も好む候補者という意味ではなく、この人なら当選しても許容できるという意味での「支持」を集めた候補者がひとり当選すれば、「勝者」を決めつつ少数意見も今の制度よりずっと反映できる。
是認投票の他の選挙制度と比較した利点は、井堀利宏・土居丈朗『日本政治の経済分析』(木鐸社)でさらに言及しているので参照されたい。ちなみに、この本は、「年齢別選挙区」を1998年に初めて提言した書でもある。
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