「サムライ」写真家が追った欧州国際急行の記憶 イタリア「セッテベロ」走行中の運転台で撮影も

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フィレンツェには7分遅れで到着。ここで乗務員が交代するので「親切」な運転士さんともお別れだ。しかし、ミラノまでの運転士に私の事はしっかり申し送りしてくれていた。

ミラノ行きセッテベロは、ここからアペニン山脈を貫く山岳路線を走り、右に左にとカーブが続く。車窓には中世イタリアの姿を留める村が見え、 「ここでセッテベロを撮りたい」という気持ちになる。山岳部を過ぎるとロンバルディア平原を走るが、高速新線のような時速180km走行はしていないようだ。

アペニン山脈を走る「セッテベロ」
アペニン山脈を越える「セッテベロ」。カーブの続く区間で後方の運転台から撮影した(撮影:南正時)
ロンバルディア平原を走るセッテベロ
アペニン山脈を越えた「セッテベロ」はロンバルディア平原をミラノに向かう(撮影:南正時)

セッテベロはいつしかミラノの市街地に入り、やがて終着のミラノ中央駅に到着した。ここで私のセッテベロのラストミッションを開始することにした。有名なミラノ中央駅の大ドームとセッテベロの撮影である。だが、カメラを構えると2人の兵士がやってきて「写真はダメだ」と言われてしまった。

運転士の助け舟で撮影がOKに

この当時、イタリアは政情不安でテロが横行していた。そのため、駅にも軍隊が出て警備をしていたのだった。

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すると、セッテベロの最後尾から運転士が下りてきて、兵士とナンヤラカンヤラと話している。そしてしばらくすると、運転士は親指を立ててOKのサインをした。兵士は銃を構えつつも、私の撮影する姿を興味深く眺めていた。

「彼は日本人の鉄道マニアさ。わざわざセッテベロを撮りたくてやってきたんだ。彼はオレとFS(イタリア国鉄)が保障するよ」ということを言ったようである。そこで撮影したのがこの項の冒頭、大ドームに覆われたホームに停車するセッテベロの写真だ。

名列車だったセッテベロだが、ETR300形は1950年代の登場で老朽化は否めず、1984年6月の夏ダイヤでグラン・コンフォルト型客車によるTEE「コロッセオ」に置き換えられ、TEEとしての歴史に幕を閉じた。

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南 正時 鉄道写真家

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みなみ・まさとき / Masatoki Minami

1946年福井県生まれ。アニメーターの大塚康生氏の影響を受けて、蒸気機関車の撮影に魅了され、鉄道を撮り続ける。71年に独立。新聞や鉄道・旅行雑誌にて撮影・執筆を行う。

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