富士通で「社会起業家」として働く社員の生き方 一般社員と何が違う?どのように評価される?

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「なぜベンチャーとして起業しなかったのですか?」といった質問を多く受けます。おそらくオンテナのようなプロジェクトは、ベンチャーでは量産化までたどり着かなかったかもしれません。ベンチャーでは資金調達のために、自分たちがやりたいことよりも、請負の仕事を優先してしまうという話もよく耳にます。さらに、ハードウエアを開発するベンチャーとなると、もともと量産するためのノウハウが少ないうえに、特許や著作権といった権利関係のケアも必要となります。

グッドデザイン賞や全国発明表彰といった大きな賞に応募するときも、企業には申請ノウハウが蓄積されていたり、出展費用を企業が負担してくれたりといったメリットもあります。もちろん、毎月の給与も支払われますし、福利厚生も適用されるため、心理的安全性を保つことができます。

一方、ソーシャル・イントラプレナーのデメリットは、ベンチャーのようなスピード感をつくり出すのが難しいことです。何かを発注するには関連部署への確認や発注作業の事務手続きに数週間は必要ですし、金額が大きくなると稟議も必要となります。

トップダウンで入社できた私でさえ、いわゆる社内政治を考慮する必要があり、「あの人に話すためには、まずこちらの人にネゴシエーションを取ってから」といったやり方をする場面もありました。企業特有の作法や暗黙のルールのようなものがあり、そこに対してはフラストレーションを感じることもあると思います。

ソーシャル・イントラプレナーが果たす役割

ソーシャル・イントラプレナーは、社会課題解決だけでなく、会社の価値を押し上げることのできる存在だと思っています。SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資が注目される中で、社会課題へのチャレンジは企業価値を上げるためのチャレンジにもなります。そのため、ソーシャル・イントラプレナーは、社会課題へのアプローチはもちろん、自分が所属する企業に対してもプラスとなる価値や効果を常に考え続ける必要があります。

2016年度グッドデザイン賞授賞式での筆者(写真:富士通)

会社のパーパスとプロジェクトの方向性を合致させ、企業にどのような価値を生み出すことができるのか。それらを見極めることで、たとえ多くの利益を出さなくても企業としてプロジェクトを存続させるための理由を見いだすことができます。

また、ソーシャル・イントラプレナーは、既存事業に従事する人々にもプラスの影響をもたらすことができると思います。オンテナプロジェクトでも、技術者の人から「普段は見られないユーザーの喜ぶ顔を見られて、とてもうれしかった」といった声や、特許部門の人から「オンテナのようなプロジェクトに関われて誇らしい」、営業の人から「オンテナのおかげで新たなネットワークを獲得できた」といった意見をいただくことができました。

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