ENEOS給油所が宅配拠点に「誰でも配達員」の妙案 ギグワーカー活用に本腰、課題は「配送品質」

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EC事業者の物流センターからスタンドまでは、運送会社が荷物を運んでいる。「配送先がスタンド」という点に驚くドライバーもいたが、特にトラブルなく実証を終えている。スタンド側もスペースを確保すればよく、現場スタッフの負担もなかった。

シンプルかつ低コストの重要性を指摘するのは、三菱商事でラストワンマイル・プロジェクトマネージャーを務める田村太郎氏。「できるかぎりコストをかけず、素早く導入しやすいようにしている。自宅に近い場所で1時間、2時間など短時間でも働けるので、新たな人的リソースを創出できる」と狙いを語る。

配達員が荷物を取り出しているところ。配達員はスタンドに置かれたカゴ台車から荷物を取り出し、近隣へ配達する。シンプルな仕組みがポイントだった(撮影:今井康一)

スタンド側の期待は大きい。少子高齢化や燃費の向上などでガソリン需要は減少してきた。全国のスタンドの数も2022年3月時点で2万8475カ所と、1994年の6万0421カ所をピークに減少傾向が続く。

ENEOSもEVなどの充電設備を増やすなど、他社との提携を含めて収益源の確保に動いてきた。現時点では具体的な配送単価や手数料率は決まっていないが、追加投資もなく配送拠点として手数料を得られる取り組みは魅力的だ。

スタンドは幹線道路や商業地など交通量や世帯数が多い場所に存在する。車両の出入りが前提の設計のため運送会社にとっても便利で、配送ついでに給油もできる。物流拠点としてのポテンシャルは高いものがあった。

荷物量を何個まで増やせるか

今後、2025年度までに500~1000カ所の直営・特約店スタンドに導入し、2026年度以降、全国で本格的な事業化に乗り出す方針だ。すでに複数の事業者から引き合いがあり、荷物を共同配送するインフラを目指す。三菱商事とENEOSは9月末までに合弁会社を設立し、本腰を入れていく。

現在はサービスの拡充を画策中。スタンドにバイクや自転車、自転車に取り付ける台車を用意するなど、ギグワーカーがより気軽に仕事をこなせるよう整備していく。そのほかバイオ燃料の提供やEV、燃料電池自動車(FCV)の設置も視野に入れる。

「足元は配送力不足が物流の課題だが、次世代エネルギー、次世代モビリティへの対応も課題になる。ENEOS、三菱商事ともこの分野に取り組んでおり、さまざまなサービスを提供できる」(ENEOSプラットフォーマー事業部の重藤希見子氏)と自信を見せる。

事業化でポイントになるのは配送品質だ。4~5月の実証では荷物量を抑えていた。個数を増やし、どれだけ効率を高められるかなど、運用面はさらに磨く必要がある。また、複数の荷主の荷物の時間帯指定にどう対応するか。地方で同様のモデルをどう構築するか。荷主と連携したシステムアプリの構築なども焦点になる。

ドライバーに残業規制が導入され、人手不足が一段と深刻化する業界の「2024年問題」が迫る中、物流の現場は効率化が急務になっている。物流事業者も、配達員も、消費者にとってもプラスになる仕組みを作れるか。スタンドを介した共同配送は、よりリアルな解決策の1つといえそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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