男性が「本音や弱音を吐きづらい」社会の問題点 白岩玄×田中俊之が語る「男性の生きづらさ」

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田中:そうなんですね。そういう意味では、子どもが小学校に入学し、学校に行く機会が増えましたが、教育については良い方向に変わってきている側面もあるように思います。

例えば、今の小学校は性別に関係なくお互い「さん」づけで呼んでいて、男の子同士でも「章吾さん」「恭平さん」と呼び合うんです。白岩さんやその上の僕らの時代は男の子は雑に扱われてきた部分があったと思うんですが、最近はコミュニケーションを取ろうという流れがある。

だから、そういう中で育ってきている男の子が、今白岩さんの言ったような「大縄跳び」が嫌だと言ったら、バカにする奴もいるだろうけど、聞いてくれる人もいるのではないでしょうか。少しずつ変わってきている気はします。

白岩:そうなんですね。教育現場が変わっているならなおのこと、僕らの世代の男性がもっと自分の生い立ちや傷ついてきた経験を語っていかないといけない気がします。そうしないと、なぜ今のような社会になっているかがわからないままです。

男の本音や弱音に耳を傾けてくれる人が少ない

田中:その通りです。難しいのは、男の本音や弱音に耳を傾けてくれる人が少ないという問題があることです。ただ、最近再びフェミニズムが注目されていて、男性が1人称で自分がどう女性を扱ってきたかを語ることにはニーズがあり、その流れを考えると、男性が本音で話せば聞く耳は持たれるようになってきたかもしれません。

白岩:加害的なことも被害的なことも含めて、男性が自分の言葉できちんと語る必要があるということですよね。

白岩玄さんにオンラインでお話を聞きました(編集部撮影)

田中:「me too」の時に男性の声を集めようとしたメディアもありましたが、声を上げた男性は少なかった。「me too」の流れを男性がちゃんと受け止め切れなかった。

その意味では、『プリテンド・ファーザー』で男性を試すリトマス試験紙の役割を果たしているのは、すみれさんという女性です。生まれて間もない子どもを残して仕事のため海外に赴くすみれさんは、旧来的な男性の価値観に染まっているとまったく理解できません。彼女をどうとらえるかでその男性がどういうレベルにあるかを測るキャラクターです。

もし、この作品を受け入れた人でも、すみれさんに引っかかる部分を感じるのならば、自分自身の女性に対する考え方を一度立ち止まって見つめ直したほうがいいと思います。

白岩:一番悩んだキャラクターなので、そう言ってもらえると本当にうれしいです。これまでの女性の生き方とは違う道を進む女性を書こうとしたのですが、そこが作品の中で違和感になってしまう気がして難しかったです。

すみれさんという人は「母親としてどうなんだろう」「女性としてどうなんだろう」と自分自身の偏見と向き合いながら書いたので、人物像が捉えきれず、最後までわからないままでした。

田中:でも、そのすっきりしない感じがあるからこそ、私たち読者が試されているようなおもしろい人物になっているのかもしれません。

白岩:男性の感情を描く部分は、自分を起点として、登場人物が壁にぶち当たるたびに自分自身が悩みながら答えを出す、その繰り返しです。それが一番リアルだと思うし、自分の中にある偏見や差別的な考え方と向き合ってもがき苦しみながら書くからこそ、読者に届いてほしいという気持ちも強いのですが、加害者性と向き合って、自分を責めながら自問自答していくしんどい作業です。

男性学の視点では、自らの加害者性と向き合うことについてどう考えますか。

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