田中:まず、この社会はみんなが共謀してつくっていて、しかも過去から受け継がれている。いくら個人が内省しても、社会で起きていることの加害者性を引き受けられるわけではないという限界を認識することは必要だと思います。
そう考えると、とてつもなく長いスパンで考えなくてはならない問題で、自分の時代では成果が見えなかったとしても次世代にバトンをつなげることが大事なのだと思えます。私たちは本を残すことで、この時代の問題を書き記し、自分の考えを残しておくことによって一定程度の責任を果たすことになるのではないでしょうか。
例えば、白岩さんの本を読んで「うちの会社でも男性の育休取得を進めよう」と頑張る人もいるかもしれないし、頑張れない人や変われない人も当然いる。今は頑張れなくても『プリテンド・ファーザー』の変わっていく男たちの物語を読んで、浄化される人もいるでしょう。
そういう人たちが増えることで最終的には社会が変わっていく。それぞれの持ち場でできることがあると思います。
答えを知っていなくてはいけないという固定観念
白岩:変われない人もいるという点に言及していただいたことがとてもありがたいです。自分も20代の時に変われなくて、違和感を言語化したいけれどできない時期が長く続いて、本当にしんどかった。そういう変われなさを肯定してもらえるのは本当にうれしいですね。
こういうテーマだと「変わっていきましょう!」と扇動しているように捉えられがちですが、自分も悩みながら愚痴を吐きながら生きているんです。だから、偉そうに言える立場ではないし、自分はそんなふうに言える人間ではないといつも思っています。
田中:白岩さんの作品は、普通の人が読んで、自分の感覚に寄り添ってくれているように思えるから共感できるんだと思います。
この作品の中で一番大事だと思ったのは、対話を通じて相手と自分の居場所をお互いにつくっていくという関係性です。お互いを尊重しながら、自分を自分として認めるということは対話を通してしか実現できないことだと思います。でも、実際にはできていない夫婦も多いし、男性同士だとさらに難しい。
白岩:同じことは子どもとの間にも言えますよね。親子はどうしても支配的な上下の関係になりがちで、親が「こうだ」と言えば、それが通ってしまいがち。でも、言った後で「ちょっと違うな」と思うこともあるし、理由を聞かれたら答えられないことばかりです。
そういう時に「正直パパもわからない」と言うしかないと思うことが日々あります。育児をしていると、わからないことだらけだということに気づかされます。
田中:今、すごく大事なヒントをいただいた気がします。親とか中高年男性という立場の人間は、答えを知っていなくてはいけないという固定観念があって、僕はそれ自体がぞわぞわして違和感を覚えるのですが、たぶん多くの人はそのように振る舞っている。
でも、親子関係に限らず、答えが出ていないというのは、他者とのコミュニケーションをする際にはフラットでとても良い状態ですよね。
白岩:お話ししていて、わからない状態にとどまるってすごくいいことなんだな、と思いました。自分が答えを持っていないことが恥ずかしくて無力感を感じてしまうこともありますが、父親の言葉がもっと豊かになるために必要なのは、他者に「わからない」と伝えることなのかもしれません。
(構成:手塚さや香)
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