緊急時の「議員任期延長」と「参院緊急集会」の是非 橋下氏、衆院議員の任期延長論は「厚かましい」
新藤氏:長妻さんは立憲主義に矛盾した話をされている。問題は、議員が選ばれなくなってしまったときにどうするのだという話だ。その大学の先生は特別にできるところから選挙をやって、どんどん選べばいいではないかと言った。3分の1の議員が選ばれれば、定数は確保されるので衆議院は構成されるよと言うが、被災地でまったく選挙ができないこともある。全国民の代表である国会が、順番に選ばれた限定的な一部地域の衆院議員しかいないのに国を運営していいのか。国会が解散して、その段階で緊急事態が発生したとする。解散した時点で衆院議員はみな身分を失っているから、内閣は参院議員を除いて首相、閣僚に任命されているというだけの人となる。選挙をやれるところからやればいいではないかという説は、では、その中から首相や閣僚を選ぶということか。とてつもない矛盾をはらんでいる。民主的な基盤がないまま無理やりやれというのか。もう一回言うが、緊急集会という参議院の特例は、あくまで選挙が予定されている段階の空白期間における措置でしかない。有事という概念は日本国憲法にはいっさいないし、参議院の緊急集会は有事を想定していない。アメリカには国家緊急権があって、これは規定がない代わりに何でもありだ。日本は立憲主義に基づいて、まさかの時のことをきちんとやらないと不法・無法状態になってしまう。
憲法の規定と、恣意的になるリスク
長妻氏:日本では、予備費の仕組みや緊急集会はまさかの時の規定だ。新藤さんの見解とは違う。恣意的になるリスクは非常に大きい。例えば、菅義偉首相は選挙をやらずに退陣した。あのときは任期満了が迫っていて選挙をせざるをえない、では、顔を替えようということだったと思う。しかし、あのときにもし、憲法にこの(衆院議員任期延長の)条項が入っていたら、新型コロナまん延を理由に、任期延長をしかねなかったと思う。非常に恣意的になってしまうリスクをいかに防ぐのか。緊急集会はきちんと機能するという学者の話もある。そのあたりを十分加味してこれから議論をしていきたい。
橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):今の憲法の規定で参議院の緊急集会を(衆院議員を選ぶことができないまま)70日以降もやると言ったら、それも恣意的だ。この議論では、憲法改正派は議員任期延長を主張して、憲法改正反対派は緊急集会でやれと言っているように感じる。僕は緊急集会派だ。ただし、緊急集会も、いまの憲法の規定をきちんと変えてやる。議員任期延長派の人は二院制が重要だと言う。でも、二院制の前提は、選挙で選ばれた国会議員による二院制だ。ロシアや中国と、われわれの国の決定的な違いは、権力をきちんと選挙で基礎づけること。それがわれわれの国の基本だ。任期が切れて選挙をふまえていなければ、新藤さんや長妻さんと僕は何の変わりもない。
新藤氏:そのとおりだ。
橋下氏:選挙で選ばれているから、新藤さん、長妻さんと僕には決定的な違いがある。もし、選挙で選ばれていない衆議院の人たちを勝手に任期延長で権力の中に入れるというのなら、別に新藤さん、長妻さん、衆議院の人でなくても、コメンテーターでも学者でも誰でもよくなってしまう。だから、憲法改正によって、議員の任期がきちんとある、選挙で選ばれた正統性のある参議院議員(の緊急集会)によって、まずはしっかり対処してもらう。どうしてもその参議院議員の任期も切れてしまって、衆議院の議員の任期も切れてしまって、選挙で選ばれた国会議員が誰もいなくなったっという状態になったときに、最後、どうするのという話が出てくるのならわかるが、選挙で選ばれていないのに、衆議院だけ議員の任期をいまいきなり延長するというのは、それはちょっと厚かましすぎると思う。
新藤氏:その大前提の選挙ができないときにどうするかという議論をしている。選挙ができるときに任期の延長は必要ない。普通に衆議院を解散し、その解散中に何か問題があれば、参議院の緊急集会をやればいい。